研究課題/領域番号 |
24580246
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
吉原 浩 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (30210751)
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キーワード | 力学特性評価 / 合板 / 中密度繊維板 / 木材素材 / 紙 |
研究概要 |
木質系複合材料の力学特性値については,たとえば合板や単板積層材料などではしばしば単純な複合則や積層理論によって予測され,積層構成や試験体形状の影響などについては十分な検討がなされていなかった。そこで本研究では,木質系複合材料の力学特性におよぼす積層構成や試験体形状の影響を検討し,その力学特性値を適切に評価できる試験法および試験条件の確立を目指すこととした。昨年度は木材素材,合板,中密度繊維板について検討したが,本年度はさらに代表的な木質系材料である紙についても検討し,十分な成果を得ることができた。代表的な成果を以下に示す。 (1) 片側にき裂を持つ中密度繊維板の非対称4点曲げ試験により,き裂進展開始時における面内せん断モードの破壊力学特性を屈曲き裂の発生を考慮して解析した。その結果,屈曲き裂が発生してもき裂先端における非線形挙動を考慮することで適切に破壊力学特性値が評価できることがわかった。 (2) さまざまな積層構成および試験体形状を持つ合板をたわみ振動試験し,合板の厚さ方向に振動を与えたときのヤング率およびせん断弾性係数におよぼす積層構成および試験体形状の影響について検討した。その結果,試験体が短くなるほどヤング率の測定値は減少し,せん断弾性係数の測定値が増加することがわかった。 (3) 様々な繊維傾斜角および試験体の幅を持つ木材素材を振動試験して対数減衰率を測定した。その結果,いずれの繊維傾斜角においても試験体の幅が広いほど対数減衰率が大きくなることがわかった。 (4) コピー用紙,袋紙およびろ紙を抄紙方向に対してさまざまな角度になるように試験体を切り出し,引張試験をすることによって提案されているいくつかの破壊条件式を検討した。また,試験結果に基づいて,引張試験から紙のせん断強さを予測する式を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度は木材素材,合板,中密度繊維板および紙を使用し,試験体形状や試験方法を様々に変えて振動試験,静的負荷試験および破壊じん性試験などの力学試験を行うことでこれらの材料の力学特性評価を実施することを予定していた。また,理論解析や数値解析を併用して上記の木質系複合材料の力学特性を予測し,得られた予測と実際の試験から得られた結果を比較・検討から適切に力学特性値が評価できる試験法および試験条件を決定することを目指した。その結果,概要に述べたことのみならず以下の成果を得ることができたため,当初の計画以上に進展していると思われる。 (1) 木材素材の繊維方向に圧縮力を負荷し,繊維に直交方向の材料非線形領域におけるひずみの変化について数理塑性力学の理論に基づいて解析した。その結果,数理塑性力学の理論の有効性が示唆された。 (2) ラワンの5プライ合板を用いて3点曲げおよび非対称4点曲げを実施し,適切な層内せん断強さを評価できる試験体形状について検討した。その結果,逆対称4点曲げ試験によって広いスパン/はりせい比の範囲で安定した層内せん断強さを評価できることを示すことができた。 (3) コピー用紙の抄紙方向および垂直方向の引張特性を試験体の長さを変えて測定し,その影響について調べた。その結果,引張特性を適切に求めるには十分な長さをもつ試験体を使用することおよびつかみ具の応力集中を十分に排除する必要があることを示すことができた。 (4) 非対称4点曲げ試験で測定したコピー用紙,袋紙およびろ紙の面内せん断強さの妥当性を,繊維傾斜を持つ試験体の引張試験から得られたせん断強さの値と比較することで検討した。その結果,薄い紙の非対称4点曲げ試験で得られるせん断強さは引張せん断強さよりも小さく,試験方法に対応するせん断強さの評価方法を整備する必要性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度および平成25年度における一連の研究では市販の木材素材と木質系複合材料(合板,中密度繊維板および紙)を使用した。これは実際に使用されている木材および木質系複合材料の力学特性値を正確に評価する方法の確立を重視したためである。しかし,木質系複合材料の力学特性をより精緻に解明するためには,原材料として使用されている木材素材および接着剤などの弾性特性や強度特性値を把握し,これらの原材料を使用して製造された複合材料の力学特性を評価することが重要である。したがって,今後は原材料の力学特性をあらかじめ測定した後に木質系複合材料を製造し,原材料から予測される複合材料の弾性特性および強度特性と実際に製造された複合材料の弾性特性および強度特性を比較する。そのときに生じる差異について,複合則や積層理論などの単純な理論解析のみならず,有限要素法解析を併用して解明し,木質系複合材料の力学特性評価法の確立を目指す。 主要な規格に標準化されている木材素材および木質系複合材料の力学特性評価法は十分な検討および改訂がなされていないものが多く,試験条件のわずかな変化によって評価値が変化するなど,材料の力学特性を適切に評価できないことがしばしばである。本研究で得られた一連の結果に基づき,上述した木材素材および木質系複合材料の力学特性値を適切に評価できるような方法を提案することを目標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
原材料から複合材料を製造して試験するという計画は,当初昨年度および今年度に実施する予定であったが,木質系複合材料の力学特性評価に関する評価方法の検討例があまり多くなかったため,今年度は市販の木材素材と木質系複合材料を使用し,多数の評価項目を掲げて検討した。特に今年度は合板や中密度繊維板に加えて市販の紙の力学特性評価についても検討をしたため,より評価項目が増加した。したがって,上述したような木質系複合材料の製造に必要な原材料の費用,製造された木質系複合材料の力学特性評価に必要な消耗品および謝金等を翌年度以降に使用することとなった。 また,次年度に一連の研究成果をまとめて論文を作成するための費用(英文校正経費および投稿経費)を準備することとした。 木質系複合材料の製造に必要な原材料として木材単板,木材繊維および接着剤などの消耗品の費用,実験補助に伴う謝金および他機関で実験を実施するために必要な旅費として使用する。 また,研究成果をまとめた論文を投稿するために必要な英文校正および投稿経費,さらに成果発表のために出席する学会の旅費を支出するために使用する。
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