研究課題
魚類の成長にはインスリン様成長因子(IGF)-Iが重要である。IGF-Iは成長を促進するだけでなく、脳下垂体において成長ホルモン(GH)の合成と分泌を抑制する。一方で、IGF-Iの活性は複数存在するIGF結合蛋白により調節されている。本研究は、サクラマスの脳下垂体におけるIGF-IのGHに対する抑制作用が、IGF結合蛋白によりどのように調節されているのか解析することを全体の目標としている。本年度は、初代脳下垂体細胞培養系の最適化を行うとともに、GHの蛋白およびmRNAレベルの定量法を確立した。そしてIGF-Iの作用を解析した。連携研究者と共に、サクラマス1年魚の脳下垂体の初代細胞培養を行った。まず、摘出した脳下垂体を細断後、コラゲナーゼで処理して培養プレートに播いたところ、4日間は良好に培養できることを確認した。次に、GHのリアルタイム定量PCR法と時間分解免疫測定法(TR-FIA)の確立を行った。リアルタイム定量PCRは、連携研究者が設計したプライマーを用いて確立した。GHのTR-FIAは、組換えGHをビオチン標識し、ウサギ抗サケGH抗体を用いた競合法を試みた。結果、スタンダードカーブが得られ、サクラマスの脳下垂体培養液とも交差性を示したことから、培養液中のGHの定量が可能になった。この実験系を用いて、IGF-Iの作用を解析した。サクラマス1年魚を雌と雄に分け、それぞれから脳下垂体を摘出し、上述の方法により培養を行った。サケIGF-Iを培養液に添加したところ、gh mRNA量は、雌雄共に添加3日後では対照群と添加群の間に有意差は認められなかった。一方、GH分泌量は雌において添加1日後および2日後に添加群で有意に低い値となった。これらのことから、処理期間は2日程度までが適切であると考えられた。また、雌雄間ではベースラインに多少の違いはあるものの、概ね同様の反応であった。
2: おおむね順調に進展している
本事業の研究計画として、1年目はインスリン様成長因子結合蛋白のクローニングと組換え蛋白の作製、2年目は細胞培養系の最適化と成長ホルモン定量法の確立があったが、これまでほぼ計画に沿った成果が得られた。3年目には1年目と2年目の実験系を組み合わせた研究を予定しており、当初の目標を概ね達成することが見込まれるため、上の評価とした。
今後は、サクラマス組換えIGFBP-1aと-1bの大量発現を行い、融合蛋白質を酵素切断して機能的な蛋白を精製する。そして、サクラマス未成熟魚の脳下垂体培養系にIGF-Iとともに添加して、IGF-IのGH抑制作用に対する調節機能を解析する予定である。
本年度では試料の抽出に必要な試薬の購入を計画していたが、来年度により多くの試料の処理が必要であることが予想されたため、消耗品費を節約した。次年度使用額(2,944円)は上述の試料抽出に必要な試薬の購入に充足する予定である。
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