研究課題/領域番号 |
24580257
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
棟方 有宗 宮城教育大学, 教育学部, 准教授 (10361213)
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キーワード | サクラマス / サツキマス / スチールヘッドトラウト / 降河回遊 / ストレス / 水温 / 発信器 / 広瀬川 |
研究概要 |
(1)東北地方南部、宮城県広瀬川中流域における定点採集調査により、昨年と同様、サクラマスの稚魚(0+年魚)が従来知られているよりも半年早い10月~11月にかけて、降河行動を起こしていることが明らかとなった。 (2)そこでこれらの稚魚12尾に小型超音波発信器を腹腔内挿入して放流し、流域に設置した5カ所のアンテナにより降河行動を追跡したところ、5尾の降河行動が確認され、さらにそれら5尾のうちの2尾が、11月下旬に太平洋にまで降海したことが確認された。一方、既に報告している通り、広瀬川では春に海から川に遡上する、小型のサクラマス遡上親魚が存在する。そこでこれらの筋肉中のセシウム量を測定したところ、測定値は放射線量が比較的高い河川残留型よりも低く、オホーツク海まで回遊したと考えられる大型の遡上親魚よりも低かったことから、これらの小型親魚は東北地方沿岸海域を回遊していたと考えられる。 以上の結果から、広瀬川では一部のサクラマスが本来知られている時期よりも半年早い満一歳の秋に川から海に降海し、東北地方沿岸海域を回遊した後の翌春に従来よりも小型の体サイズで河川に遡上することが示された。この結果は、本研究が提唱している仮説通り、一部のサクラマスの回遊パターンがより南方に分布する同属近縁種であるサツキマス化していることを示すものと考えられる。 (3)オレゴン州立大学において、スチールヘッドの稚魚をモデルとして、水温変動が稚魚の行動に及ぼす影響をY字水路を用いて調べた。その結果、稚魚は特に水温が上昇した場合に、水温が上昇した水域を忌避することが明らかとなった。この結果かから、稚魚は河川の水温が通常よりも大きく上昇した場合、より水温が低い上流域に移動する可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、東北地方南部の一部の河川において、サクラマスの降海年齢の若齢化と、降海期間の短縮が起こっているか否か、すなわちサクラマスの生息域の南部において、降海回遊のパターンが本種の同属近縁種であり、より南方に分布するサツキマスに近づいているか否かを明らかにすることである。 本年度の研究では、小型超音波発信器の装着実験により、スモルト化した稚魚(12尾中2尾)がサツキマスと同様に11月に川から海に降海することが判明した。また、筋肉中のセシウム量の測定値から、こうした個体は沿岸域を回遊し、約半年後の春に海から川に遡上することが示唆された。以上の結果は、広瀬川の一部のサクラマスが、サツキマスとほぼ同様の回遊パターンを発現している可能性を示唆する。以上の研究成果が得られたことから、本年度の研究は概ね順調に進展したものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、広瀬川では一部のサクラマスが、より南方に分布する同属近縁種であるサツキマスのように、満一歳の秋に川から海に降海することが明らかとなった。そこで26年度は、これらのサクラマスがこれまで知られているよりも半年早く降海するようになった要因(理由)を明らかにすることが期待される。 現在の仮説としては、サクラマスよりも南方に分布するサツキマスにおいて、降海年齢が若齢化していることから、南方に特徴的な環境要因が、降海年齢の若齢化に関係していると考えられる。そこで本研究では日本の南方に行くほど河川水温が高い値で推移することに注目し、水温の上昇がサクラマスの降海年齢の若齢化を引き起こす要因となっている可能性を考えている。そこで25年度の研究では、水温が回遊行動の発現に及ぼす影響を明らかにする端緒として、水温の上昇が同属近縁種であるスチールヘッドトラウトの稚魚の移動に及ぼす影響を調べた。その結果、稚魚は水温の上昇を忌避して移動することが明らかとなった。このことから申請者は現在、水温の上昇に従い、稚魚が上流に移動することで生息密度の上昇が起こり、このことがストレス応答系を通じて稚魚を早期のスモルト化、ならびに早期の降海へと導くのではないかと考えている。このことを実証するため、広瀬川の上流域において夏以降に稚魚の早期のスモルト化の過程を野外観察するとともに、現在でも1歳半の春に降河回遊が行われている北海道の河川のサクラマスの性状と比較する計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成26年度は、サクラマス稚魚の降海時期と降海期間を耳石輪紋数と耳石中のストロンチウム含量に基づいて査定するため、試行的に3検体の耳石を外注により解析したが、解析精度にばらつきが多いことが判明し、一時解析を中断した。また広瀬川で採捕されたサクラマスのサンプル稚魚数がホルモン解析を行うほど十分ではなかったこと、オレゴン州立大学で採集した血液サンプルを日本に持ち込むことができず、未解析であることなどから、ホルモン測定の経費が未使用のままとなった。またサクラマスの近縁種であるサツキマスに関する調査を西日本のサツキマスではなく栃木県の水産総合研究センターのホンマスを用いて行ったこと、北海道における調査が未実施のため、次年度使用額が生じている。 上記の一部の研究内容の変更と支出の変更に伴い生じた次年度使用額の一部を、広瀬川等の河川本流に設置可能なPITタグの受信システム(受信装置並びにPITタグ本体)の構築に充てる。本PITタグシステムにより、従来の小型超音波発信器よりも安価にサクラマスの降河行動追跡実験を行うことが可能となるため、より多くの稚魚にPITタグを挿入し、降河行動がいつ、どのような環境要因に応じて発現するのかを明らかにすることが可能になると期待される。また、前年度不十分であった耳石の解析やホルモン解析、飼育・行動観察、フィールド調査にも次年度使用額を充当する計画である。
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