研究課題
日本の定置網漁業は400年の歴史を持ち,地域の雇用や経済を支える村張り定置網として発展してきた経緯があり,現在は漁業権で規定された沿岸域での商業的漁業として世界的にも特異な経営実態となっている。この村張り定置網の機能を途上国の漁村振興に役立てるための適用モデル構築を目指す研究を実施した。日本国内での実態調査として富山県氷見市の大型,小型定置網について視察並びに情報収集を行い,特に地域振興に向けた漁業協同組合と市役所行政の役割や機能について検討してきた。途上国での調査としては,2003年にタイ国ラヨンに技術移転された日本式定置網についての調査を継続し,漁獲販売記録をもとに漁期を通じた漁獲傾向の変化,そして漁獲物販売や流通経路と魚価設定の方式を明らかにしてきた。また風向風速計,流向流速計,網深さ計を漁場に設置し,環境条件と漁獲変動に関する解析を継続してきた。この過程で周辺漁場の小型沿岸漁業の操業形態を環境条件との関係から検討し,定置網漁業を行うことの有利性や収入変化をもとに,漁場競合の問題や漁業者の意識調査を実施した。これらの成果をもとに,定置網操業の機能に視点をおいて環境と資源と人の関連性について,氷見市,そしてタイ国とインドネシアの定置網技術移転の事例を比較して地域振興の駆動力となる因子を解析してきた。定置網漁業の環境インパクトの問題については,主要漁獲物の筋肉片と消化管内容物の安定同位体分析をもとに魚種別に栄養段階の推定を試み,12年間の漁獲物組成の傾向をもとに漁獲物平均栄養段階を指標とした漁獲傾向の安定性を確認した。この結果を周辺沿岸域での漁場別,漁業種別の指標と比較し,定置網による漁獲がバランスのとれた沿岸域からの資源利用につながることを確認した。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) 図書 (1件)
日本水産学会
巻: 80 ページ: 837
http://doi.org/10.2331/suisan.80.837