研究課題/領域番号 |
24580269
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
池島 耕 高知大学, 自然科学系, 准教授 (30582473)
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キーワード | マングローブ / 水産動物 / 生態系修復 / カニ / タイ王国 |
研究概要 |
近年,魚類やエビ類の成育場,あるいは有機物の供給源など,マングローブ域が生態的に果たす役割の解明が進む一方,マングローブ林の再生や保全においては,生態系の修復効果を検証した研究は少なく,生態系の機能をふまえた修復や管理もほとんど行われていない。本研究は,マングローブの再生林と保全林において水産動物群集と植物群落,土壌環境を同時に調査し,マングローブ植生の再生による生態系の修復効果を検証するとともに,マングローブ生態系における水産動物と動植物間の相互関係を明らかにし,マングローブ生態系の環境指標となる水産動物・環境測定項目を明らかにすることを目的としている。 本年度は,初年度の実施した予備調査の,調査方法と調査区の検討結果を基に,タイ国南部ナコン・シ・タマラートの,エビ養殖開発によるマングローブ伐採地であり,そこに植林されたマングローブ林の混在する沿岸の調査地において生物相の調査を実施した。マングローブ植生の無い「干潟」,植林後の年数の異なる(2年,20年)2地点,古いマングローブの残る水路の合計4地点を設定し,地曳網による魚類採集,プランクトンネットによるプランクトン採集,コドラート法によるベントス採集を行った。初年度の予備調査および本年度の調査では,水質およびプランクトンの組成,密度には地点間による明瞭な違いは見られなかったが,魚類ではマングローブ植林後20年の地点で他の地点より種数,密度ともに高い傾向が見られた。 また,本研究ではマングローブ生態系の鍵種と捉え,カニ類の定量調査法の開発を試みているが,ビデオ撮影により,生息数をより高い精度で推定でき,従来の方法が過小評価となってきたことを示す結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は先ず,初年度に行った調査地および調査地点,調査項目の選定と予備調査の結果を受け,ベントスの採集をコアサンプル法に切り替えたほか,現場での標本処理の方法などに若干の調査方法の改良をした上で,ほぼ同様の環境と水生生物の採集調査を本調査として実施した。本年度は樹木および土壌の調査は行えなかったため,次年度の実施課題である。 植林後の経過年度の異なる地点間の比較では,魚類についてすでに地点間による違い,とくに経過年数の多い地点で魚類が豊富であることが示唆される結果が得られた,今後はベントスや他の物理,生物パラメータとの比較により植林による生物相,環境条件とそれらの相互作用を明らかにする また,本研究ではマングローブ生態系の鍵種と捉え,カニ類の定量調査法の開発を試みているが,本年度は,初年度の結果を踏まえ,目視,ビデオ撮影による観察について,コドラートの大きさを2x2mから1x1mへと変更し,両観察法による生息種,生息数の推定法の検討を進めた。ビデオ撮影を併用した方法が生息数をより高い精度で推定でき,従来の方法が過小評価となってきたことを示す結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では植林後の経過年数の異なるマングローブ再生林を同時に調査することで,短期間で植林経過後の生態系修復効果を検証することを目指しており,経過年数以外の環境条件をできるだけ同等にするべきである。しかし,初年度に行った調査地点の選定と視察において,マングローブ植林は,マングローブ前面に形成された干潟で行われたり,一部を伐採された場所での補足的な植林が行われたりしており,経過年数のみを要因として比較を行えるような場所は設定できなかった。それでも,ナコン・シ・タマラートにおいては,20年前より再生林を拡大して来た場所があり,水理条件の違いについての考慮が必要であるものの,植林後の経過年数の違いを含めて,生態系修復効果を検証できると考えられ,定点調査を開始し,本年度も継続的に本調査を実施し,次年度も継続して行う予定である。当初,採集方法について問題の生じたベントス調査についてはコアサンプル法や道具の改良により,限られた調査時間と労力のなかで実施する事ができた。一方,土壌,樹木調査については,実施が遅れているが,できるだけ効率的に行える簡易的な調査法や,既存の情報を補足的に活用し,最小限必要なパラメータの値を測定する。 本研究のもう一つの柱として,カニを中心とした生物間および環境との相互作用についての解析を目的としているが,カニの生息密度の定量的推定が確立されていなかったため,初年度と本年度に,従来の方法であるトラップや巣穴数の計数による推定法とあわせて目視およびビデオ観察をおこない,より効率的に精度の高い推定法として,コドラートを設置してビデオ観察を用いる推定法の確立にほぼ目処が立った。次年度は植林地に適用し,カニと他生物および環境との相互作用の解析に必要な,生息種,密度のデータを採取する予定である。
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