本研究はマングローブの植林後の年数の異なる再生林で水生生物群集を調査し,マングローブ植生の再生による生態系の修復効果を検証するとともに,マングローブ生態系における水産動物と動植物間の相互関係を明らかにし,環境指標となる水産動物・環境測定項目を明らかにすることを目的とした。最終年度は,タイ国南部ナコン・シ・タマラートの,エビ養殖開発後に植林された経過年数の異なるマングローブ林の混在する調査地において生物相の調査を継続して実施した。さらに,食物連鎖,物質循環において重要な役割を果たすと考えられるベンケイガニ類の生息密度の定量的な調査法を確立し,植林地でも調査を行った。 マングローブ植生の無い「干潟」,植林後の年数の異なる(2年,20年)2地点,古いマングローブの残る水路の合計4地点を設定し,地曳網による魚類採集,プランクトンネットによるプランクトン採集,コドラート法によるベントス採集を行った。初年度の予備調査から最終年度まで,水質には地点間による明瞭な違いは見られなかったが,植物プランクトンは干潟と植林後2年の地点で密度はやや高く,いっぽう,魚類やエビ類ではマングローブのある地点は干潟より種数,密度ともに高い場合が見られたが,調査年による変動があり,植林後の年数による違いについては明瞭な傾向が見られなかった。 ベンケイガニ類については,従来法の目視に加えて,ビデオカメラを用いて観察を行い,両者の比較から,カニの行動に影響し難いビデオ観察の有効性が示された。また,適切な観察時間,コドラートサイズなどを検討し,採集,目視とビデオを併用した密度推定法を確立し,調査地各地点での密度推定に適用した。植林地のマングローブでは自然林に比べカニ種数,生息密度は低い傾向が示唆された。
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