研究課題/領域番号 |
24580276
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
安樂 和彦 鹿児島大学, 水産学部, 准教授 (50274840)
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キーワード | 視覚 / 集魚灯 / 分光感度 / 顕微分光計測 / 網膜電図 / 海水の光学的特性 |
研究概要 |
前年度に製作した単一視細胞の分光吸収を計測する顕微分光計測装置の運用を開始し、計測装置の校正を繰り返すとともに、マアジ、コイ網膜、さらに単細胞微細藻類を対象とし、10ミクロン程度の対象物の分光吸収特性計測を実施可能にし、分光吸収極大および分光吸収特性を表す曲線を得た。単一種の視細胞ごとに得た分光吸収曲線は既往のテンプレート関数で近似でき、視感度関数として表せた。 漁業者が現用する白熱灯、ハロゲン灯、メタルハライド灯、さらには開発途上国で集魚灯として多用される蛍光灯を対象に光源の分光放射照度を計測し、それぞれの分光放射照度に対して魚類の視感度関数を乗じることで、光源種類ごとの作用効率(マイクロW/m-2/W)を求め、光源種間の比較を可能にした。本手法により、任意に放射波長を設計可能なLED集魚灯の作用効率評価を可能とした。 本研究では、集魚灯光が魚類視覚に作用するまでの過程を工学的にとらえることを目標としており、海水中での光の伝搬についてもその特性を理解するとともに、その特徴を数値的に表現する必要がある。そこで、研究室が保有する、複数の海域において計測・推定した海水の光の波長別消散係数(減衰係数)を用い、集魚灯周りでの照度分布を推定するシミュレーションプラットホームの製作に着手した。現状では、光源を点光源と見なし、光源からの距離の増加の2乗に反比例して光が減衰するモデル式を利用しているが、洋上で実測した照度分布との間に明白な差が見られる事より、次年度にも本研究課題に継続的に取り組み、実海域での計測に基づいてシミュレーション精度を高めるモデル構築を必要とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、集魚灯の光が放射され、海水中を伝搬され、魚類視覚により受容されるまでの過程を工学的にかつ定量的に理解すること、さらに、その結果を集魚灯周りでの照度分布推定(シミュレーション)や設計者による波長設計の一助とすることを目的としている。本年度においては、前年度に製作した顕微分光計測装置による魚類視細胞の分光吸収計測を実施し、各種視細胞の分光感度を関数式で表すことを実現した。また、漁業者の現用する各種集魚灯及びLED集魚灯の放射スペクトルと顕微分光計測に分光視感度に基づいて、各種光源の魚類視覚への作用効率を推定した。さらに、他研究により計測・推定した研究室保有の海水の消散係数データをもとに集魚灯周りでの照度分布シミュレーションにも着手し、次年度に計画しているフィールド実証試験への準備も一部開始した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の推進において大きな変更はなく、次年度の実証試験に向けての基礎研究の基本は完成しつつある。ただし、本課題で製作した顕微分光計測装置を用いた分光視感度の計測を行うには研究室での実験魚の短期飼育が必要とされ、必ずしも全ての水産有用魚種に本技術を利用可能とは言えない。そこで、既に製作した分光計測装置の小型版、かつ単一視細胞対象ではなく網膜そのものの分光を計測可能な簡易装置を自作し、野外での視感度計測を試みることを計画している。
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