研究課題/領域番号 |
24580279
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
加戸 隆介 北里大学, 海洋生命科学部, 教授 (40161137)
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研究分担者 |
難波 信由 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (20296429)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 地盤沈下の影響 |
研究概要 |
震災後の潮間帯生物相の遷移状況把握のため、越喜来湾の崎浜第2防波堤岸壁において、水中ビデオカメラを使って隔月に潮間帯生物を撮影し、画像解析により出現種名、種数、密度を調べた。同時に、水温、塩分、クロロフィル蛍光などの環境要因、付着動物幼生密度をプラントンネットを用いて調べた。 また、潮間帯への生物加入状況を震災前後で比較するため、震災以前から実施していた試験板による付着生物相の経月モニタリング調査を再開した。 その結果、1)130cm地盤沈下した調査地点は沈下前にはマガキ、エゾカサネカンザシが優占する低多様性群集だったが、震災後の新潮間帯域には、春にチシマフジツボ、夏にムラサキイガイ、冬から翌春に海藻、夏にムラサキイガイ殻上にアカフジツボと外来フジツボのPerforatus perforatusなどが新たに加わり生物多様性が増加した。震災年の秋までキタムラサキウニ密度は低かったが、その後、震災以前の密度に増加した。これらから、過去の実験的調査による仮説「キタムラサキウニによる捕食圧抑制とチシマフジツボの生残により生物多様性が増加する」は、強く支持される結果となり、ほぼ同様の遷移が現在進行中である。2)潮下帯に沈下した潮間帯中、下部の生物群集は、その環境変化によって直ぐに死亡することはなかったが、沈下後の他生物による被覆により生残が左右される現状にある。3)付着生物加入状況の経月変化結果は、震災以後2年続けてアカフジツボの有意な付着密度増加を示したが、その理由は定かでなく、今後の湾内養殖施設増加に伴う変化を調べながら考察する必要がある。 以上より、震災後の変化は津波や震災の影響による特異的な現象ではなく、生物的環境要因が変化した際にも生じる現象であり、潮間帯生物相の形成に潮下帯に出現する付着性動植物の被覆圧の少なさが大きく関与していることが新たに示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 地盤沈下に対する嵩上げ工事による調査の中止または中断が危惧されたため、その代替調査も計画していたが、幸い現在まで工事は調査場所まで及んでおらず、同一場所において調査を定期的に継続実施できている。 2) 当初目的である1)新たに形成される潮間帯生物群集の追跡調査、2)沈下した生物群集の追跡調査、3)潮間帯への生物加入時期と密度の比較、のいずれも予定通り進行している。 3) プランクトン中の付着動物幼生の解析が今後の課題として残されている。
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今後の研究の推進方策 |
1)越喜来湾崎浜第2防波堤の潮間帯における生物遷移の極相までの追跡調査および環境調査:過去の越喜来湾でのフィールド研究から、潮間帯の生物相が極相に達するまでの生物遷移に最低3年を必要とすることがわかっている(加戸ら, 2009)。そのため、2013年度においても同様の内容の調査・観測を引き続き行う。この年度は特にキタムラサキウニの出現密度とこのウニの捕食圧による付着生物の剥離の影響に注目しながら解析を行う。 2)付着生物相の経月変化の把握:前年度に引き続き震災3年後の変化を明らかにするため,同様の手法により実験・調査を行う。 3)養殖対象生物が湾内に導入されてきていることから、これらの養殖対象種が潮間帯付着生物の加入量に及ぼす影響(例えば、浮遊幼生の濾過摂食)についても検討したい。 4)岩礁域の潮間帯での生物・環境調査:この調査も前年度に引き続いて実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)50万円を越える備品費の支出予定はない。 2)経費の主な支出項目は旅費として支出(当初、人件費・謝金としていたものを調査補助者の旅費に変更:相模原-水沢江刺間の鉄道運賃(学生1名+教員1名:48,000円/月:年12回、576,000円/年)、水沢江刺-大船渡市三陸町間のレンタカー代(25,000円/回、年12回、300,000円/年)、宿泊費(学生1名+教員1名:16,500/月、年12回、198,000円/年)に充当する(旅費総額約107万円)。 3)その他の経費の使用用途は、付着試験板の制作・納入費(約20万円)、試薬代(約10万円)、調査関係消耗品(年間約16万円)である。 次年度に繰り越しが生じた理由は、物品費が予算を少し下回ったこと、その他予算が予算を下回ったことによる。これらの繰越額は、今年度の調査旅費が予算を上回ったことを鑑み,次年度調査予算に充当する予定である。
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