研究課題/領域番号 |
24580281
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
吉永 龍起 北里大学, 水産学部, 講師 (30406912)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | シオミズツボワムシ / ストレス応答 / トランスクリプトーム / ユグロン |
研究概要 |
シオミズツボワムシ(Brachionus plicatilis species complex)は,海産仔稚魚として有効な唯一の初期餌料生物である.一方,その大量培養では増殖不良の問題が残されている.申請者は,薬剤(ユグロン)耐性を指標としたワムシの生理状態の評価法を開発し,これにより増殖不調の予知が可能であることを見出した.一方,ワムシ個体群を構成する各個体のストレス応答は,動的に変化することが分かっている.そこで,網羅的な転写産物の発現解析により,ストレス耐性の動的変化の実態を明らかにすることを目的とした. 本年度は,給餌量に起因するワムシのユグロン耐性の変化に関わる遺伝子群の探索を行った.小規模培養4日目の飽食区および給餌制限区の個体群から得たtotal RNAを用いて,次世代シークエンサを用いて発現解析を行った.ワムシの遺伝情報は未だ十分ではないため,まず長鎖型および短鎖型の2つの解析手法で得られた配列情報を基にリファレンスとなるトランスクリプトーム配列を作製した.その結果,98437コンティグのトランスクリプトーム配列が得られた.次に,得られたトランスクリプトーム配列に短鎖型解析で得られた配列をマッピングし,発現解析を行った.その結果,飽食区で高発現している遺伝子の候補として43コンティグ,給餌制限区で高発現している遺伝子の候補として294コンティグが得られた.現在は,得られたコンティグについてblastX検索による遺伝子の同定およびGO解析を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初年度は,長鎖型および短鎖型の2種類の次世代シークエンサによるトランスクリプトーム(転写産物)を行い,十分な質と量のデータを得ることができた.シオミズツボワムシのゲノム情報はまだ十分ではなく,本研究で得られたデータセットはこれまでにない規模のものである.得られた配列データについて,常法のデータベース検索によるアノテーションを試みたものの,近縁種の情報が皆無であるため,信頼に足る結果は得られなかった.そこで,特定のドメイン構造に絞ってデータベース検索を行ったところ,無脊椎動物から脊椎動物に至るまで広い分類群で保存的な領域を多数のコンティグについて同定できた.この中には老化やストレス応答に関わるシグナル伝達経路を構成する分子群が含まれており,目的とした分子群をシオミズツボワムシにおいて同定できた.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,トランスクリプトームおよびプロテオームの2つのレベルでの研究を計画していた.一方,次世代シークエンサによって得られたトランスクリプトームのデータセットが計画時に予想したものよりもずっと質が高く,また量的にも十分なものであった.さらに,保存的なドメイン構造に注目したことにより,困難と考えていたアノテーションも可能であることが分かった.そこで,比重をトランスクリプトームに置き,2年目以降の計画であるストレス応答分子の同定を行うことを計画している.
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度の研究費を繰り越す状況は,当初の見積よりも支出が抑えられたからである.少額であるため,次年度の使用計画に大きな変更はない. 本研究の2年目の研究費は,特定の遺伝子群の発現量解析にもっぱら費やす計画である.具体的には,定量的リアルタイムPCRの発現量解析系を立ち上げるため,増幅試薬や蛍光プローブを購入する.
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