研究課題
基盤研究(C)
目的:我々はコイのCD4+T細胞(Th細胞)が単クローン性に増殖できる培養系を確立しており、これまでに哺乳類のTh亜集団の1つであるTh2様のクローンを得ている。そこで本研究では、さらに多くのクローンを作製し、それらの性状を解析することで、魚類Th亜集団の探索を試みた。方法:支持細胞層を形成させた25cm²フラスコ上で、コイ腎臓白血球を20%FBS及び2.5%コイ血清を添加したE-RDF培地で培養した(バルク培養)。これにより増殖した細胞を顕微鏡下で1細胞ずつ分取し、支持細胞層を形成させた96穴プレートの各穴に1細胞ずつ播種した。これらの1細胞からコロニーを形成させ、さらに拡大培養を行った。なお、培養液にはバルク培養の上清と、T細胞増殖因子であるコイIL-2のリコンビナントタンパク(rIL2)を作製し、添加した。結果:上述の培養系でrIL2を添加したところ、無添加の場合と比べ、コロニーが形成されたウェル数が約2倍に上昇した。得られたT細胞クローンを継代したところ、3つのクローンにおいて長期培養が可能となった(クローンNo.1, No.2, No.3)。これらのクローンはTCR-α, -β, 及びCD4-1の発現が見られたが、CD4-2, CD8α及びCD8βの発現は見られなかった。次に、各クローンをT細胞マイトジェンであるPHAで刺激し、刺激後に発現量が上昇するTh関連サイトカイン遺伝子を調べたところ、クローンNo.1では魚類のTh2サイトカインであるIL-4/13A及びIL-4/13Bの発現上昇が見られたが、クローンNo.2ではTh1サイトカインであるINFgの発現上昇が見られた。以上のことから、魚類においてもTh1およびTh2亜集団が存在することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
真骨魚類は,哺乳類と同様,T・B細胞を主体とした獲得免疫機構を持つ.そのため獲得免疫反応の中心的な制御機構を構成するTh亜集団の存在や性状を調べることは,魚病の病態解明・予防・ワクチン開発などに大きく貢献するものと思われる.このような背景から,近年魚類でも,Th亜集団の同定に向けた多くの研究が行われて来ている.しかし,その多くは,哺乳類遺伝子との相同性に基づく,魚類Th関連遺伝子の単離と,臓器・組織レベルの発現解析によるものであり,魚類Th亜集団の存在を直接証明していない.また,最近では,Th表面マーカー遺伝子の組換えタンパク質の合成と,それに対する抗体を作製し,哺乳類のTreg類似の集団をミドリフグで分離できたとの報告もある.しかし,この手法も,アイソフォーム遺伝子の多い魚類では,抗体の特異性が問題となったり,また,魚類に特有のTh亜集団を見逃したりする可能性もある.一方,我々が行うクローン化T細胞株の作製技術は,1個のTh細胞から増幅させるため,細胞の均一性は完全に担保される.また,哺乳類には無い,魚類特有のTh亜集団も発見できる可能もある.この様に,申請者らの取組みは,従来の研究手法と一線を隔すものであり,いままでにない,新たな発見が期待できる.
Th亜集団の同定には,Th1サイトカイン(IFNγ2・TNFα),Th2サイトカイン(IL4/13A,IL4/13B,IL10),Th17サイトカイン(IL17,IL22)およびTregサイトカイン(TGFβ,IL10)などの発現解析を各細胞株について行なう必要がある.また,哺乳類Th亜集団のそれぞれの分化や機能維持には,特異的な転写因子の発現が重要である.すなわち,Th1,Th2,Th17およびTregにはそれぞれ,T-bet,GATA3,RORγtおよびFoxP3が発現していると考えられる.そこで,これら転写因子遺伝子についても,各細胞株で発現の有無を調べ,サイトカイン産生パターンと合わせて,Th亜集団の同定を行う.
該当なし.
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