研究課題/領域番号 |
24580289
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研究機関 | 独立行政法人水産総合研究センター |
研究代表者 |
山口 峰生 独立行政法人水産総合研究センター, 瀬戸内海区水産研究所, 主幹研究員 (00371956)
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キーワード | 菌類 / ツボカビ / 有毒プランクトン / 寄生 / シスト / 渦鞭毛藻 / 海洋 |
研究概要 |
日本沿岸海域におけるツボカビの探索を行うため,宮城県女川湾,気仙沼湾,岩手県大船渡湾,愛知県三河湾より採取した海底堆積物についてマツ花粉釣菌法による探索を行った結果,大船渡湾より新規菌類を分離することに成功した。得られたコロニーについて,PmTG液体培地で限界希釈培養を行い,クローン株を得た。本株について,その形態と発達過程を光学および電子顕微鏡を用いて観察するとともに,rDNAの塩基配列を決定した。本菌はPmTGプレート上で白色のコロニーを形成し,海水ベースのPmTG液体培地中でも良好に増殖した。遊走子から新たな遊走子放出までの期間は約10日間であった。遊走子嚢は直径約190μmの球形で,仮根が良く発達する分実性,単心性であった。放出管は数十個以上と多数あったが,蓋状の構造はみられなかった。遊走子は頭部が約2μmの球形で,後端に長さ約26 μmのムチ型鞭毛1本を有していた。遊走子内にはミクロボディ―脂質小球粒複合体(MLC)とリボソームが細胞中央にまとまり,その周囲に核と数個のミトコンドリアが位置した。また,脂質粒子の細胞壁側にはランポソームがみられた。SSU rDNA塩基配列は本菌がRhizophydiumクレード内に位置することを示し,またLSU rDNA塩基配列はAmon(1984)が緑藻ミルから分離したR. littoreumとほぼ一致した。植物プランクトンへの寄生の有無を調べるため,遊走子を珪藻1種,渦鞭毛藻3種と混合培養した結果,Alexandrium tamarenseのみで遊走子嚢の成熟と新たな遊走子の放出がみとめられた。しかし,遊走子嚢はPmTG培養の1/10程度にまでしか成長せず,本菌は必ずしも生きた細胞を必要しない条件的寄生菌と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大船渡湾の海底堆積物中から培養可能なツボカビの分離に成功し,その形態学的特徴および遺伝子解析を行い,本菌がRhizophydium littoreumである可能性を示した。さらに,本菌が海産渦鞭毛藻に寄生することも明らかにした。海産の寄生性ツボカビの培養株を確立できたことは,今後の定量PCR法による分子モニタリング技術の開発に極めて重要であり,本課題は順調に進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,我が国沿岸海域におけるツボカビの探索を行う。試料から泥懸濁液を調製し,これを一定温度,明暗周期のもとで培養後,光学顕微鏡観察により寄生性ツボカビおよびそれらの遊走子が付着した寄主細胞を探索する。探索でみとめられた寄生性ツボカビについて分離・培養を行い,菌体の特徴を把握する。培養過程での菌体の発達過程を経時的に調べるとともに,遊走子嚢および遊走子の形成および形態を明らかにする。ツボカビ門においては,とくに遊走子の構造が形態分類の重要な基準とされていることから, 走査電顕および透過電顕を用いてその微細形態を精査する。また,寄生性ツボカビの菌体からDNAを抽出後,リボゾーム遺伝子の塩基配列を決定し,分子系統解析を実施する。得られた形態学的および分子系統学的特徴を基に分類学的検討を行う。さらに,寒天培地などを用いて,ツボカビの継代培養を試み,その生活環の解明を目指す。現場海域における寄生性ツボカビの動態解明のツールとしてFISH法,LAMP法および定量PCR法による分子モニタリング技術の確立を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
関係機関,とくに東北地方の協力により,試料採集のための国内旅費が軽減できたため。 次年度,ニュージーランドにおいて有害藻類ブルームに関する国際会議が開催されるため,そこに参加し本課題で得られた成果の発表および有毒渦鞭毛藻に寄生する生物に関する情報収集を行うための外国旅費として使用する。
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