昨年度までの解析により,三河湾および大阪湾から発見された有毒渦鞭毛藻アレキサンドリウムに寄生するツボカビはそれぞれ別のクレードに属することが明らかとなっていた。2014年にフランスで新種記載されたツボカビDinomyces arenysensisのリボソーム遺伝子配列データを加えて再解析したところ,大阪湾産ツボカビはD. arenysensisと同じクレードに属するが,三河湾産はそれとは別のクレードに位置した。このことから,本邦産のアレキサンドリウムに寄生するツボカビは少なくとも2種存在することが明らかとなった。また,大船渡湾からアレキサンドリウムの休眠シストに内部寄生する菌を発見した。寄生初期にはシスト内部に顆粒状の構造が見られ,時間の経過とともに遊走子が形成された。その後,シスト表面からパピラ様構造が突出し,その先端から遊走子が放出された。遊走子は3µmの球形で大きな脂肪粒を1個有し比較的ゆっくりと遊泳した。遊走子は長さ12 µmの鞭毛1本と数本の糸状仮足様構造を有した。リボソーム遺伝子解析により,本種はコアではないものの,広義のツボカビに属する新奇菌類であると考えられた。この菌は現場および培養シストへに寄生することが確認でき,継代培養が可能であると考えられた。さらに,同海域から2種の寄生性真核微生物も発見された。それらの形態学および遺伝子解析結果から,一つはアルベオラータに属する新種,もう一方はリザリアに属するネコブカビ類の一種であることが判明した。以上のように,アレキサンドリウムには極めて多様な寄生性真核微生物が存在することが明らかになった。以上の結果は,海洋生態系の構造と機能を理解する上で,また,有毒プランクトンの生物学的防除の候補として,これら寄生生物の生理・生態特性の解明が極めて重要な研究テーマとなることを示すものと考えられる。
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