研究課題/領域番号 |
24580293
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田中 啓之 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 助教 (90241372)
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キーワード | 筋肉 / 筋収縮調節 / ミオシン / アクチン / トロポニン / 棘皮動物 |
研究概要 |
(1)キタムラサキウニ顎骨間筋トロポニンI(SN-TnI)のcDNAを発現ベクターに組み込んでリコンビナントSN-TnIを調製し、その特性を検討した。SN-TnIは、他動物のトロポニンIとは異なり、ウサギ再構成アクトミオシンのMg-ATPase活性をわずかしか阻害しなかった。また、SN-TnIは、ウサギのトロポニンCまたはキタムラサキウニ・カルモジュリンに対し、Ca2+依存的に強く結合したが、ロブスターおよびアカザラガイ・トロポニンCに対する結合は見られなかった。さらに、SN-TnIをウサギに免疫して抗血清を作製し、顎骨間筋アクトミオシンのウェスタンブロッティングを行った結果、分子量60から100 kDaの複数のタンパク質が陽性反応を示した。 (2)マナマコ体壁縦走筋およびキタムラサキウニ顎骨間筋から調製したアクトミオシンのMg-ATPase活性は非常に低かったが、カルモジュリンとニワトリ砂嚢筋ミオシン軽鎖キナーゼを添加すると、この活性はCa2+依存的に増大した。従って、これらの棘皮動物の筋肉は、他動物の平滑筋と同様にミオシン軽鎖のCa2+依存的なリン酸化による収縮調節を受けると考えられた。 (3)マナマコ体壁縦走筋を低塩濃度緩衝液でホモジナイズすると、他動物の場合とは異なり、大部分のアクチンフィラメントが遊離し可溶性画分に回収された。このアクチンフィラメントをウサギのミオシンに添加しても、Mg-ATPase活性の促進は全く見られす、ミオシンに対する結合を抑制する因子の存在が考えられた。アクチンフィラメント画分のSDS-PAGEと質量分析により、この因子が主要卵黄タンパク質(MYP)である可能性が示唆された。さらに、MYPを主成分とする体壁からの抽出物が、ウサギ再構成アクトミオシンのMg-ATPase活性を強く阻害することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回、キタムラサキウニ顎骨間筋およびマナマコ体壁縦走筋に、一般の平滑筋と同様なミオシン軽鎖のリン酸化による収縮調節系が存在することが示された。一方、顎骨間筋について、これまでにトロポニンIやトロポニンTそしてトロポミオシンをコードするcDNAのクローニングが行われ、今回、ウェスタンブロッティングによってもトロポニンIの発現が確認された。従って、同筋肉には、ミオシン軽鎖のリン酸化による系とトロポニン系の2つの収縮調節系が共存していると考えられる。リン酸化による調節は、Ca2+を結合したカルモジュリンがミオシン軽鎖キナーゼを活性化し、それがミオシン軽鎖をリン酸化してアクチンとミオシンの相互作用を可能にする。従って、この機構に依存した収縮応答は比較的遅いと考えられる。一方、トロポニン系はアクチンフィラメントに結合したトロポニンにCa2+が直接結合して収縮を引き起こすもので、刺激に対してより素早い応答をもたらすと考えられる。このように特性の異なる2つの調節系の共存は、神経刺激の強弱や刺激が筋細胞に伝達されてからの経過時間に応じた役割分担の存在を示唆している。 一方、今回、マナマコMYPがアクトミオシンMg-ATPase活性の阻害作用を持つ可能性も示された。この阻害作用の生理的意義についてはさらなる検討が必要であるが、運動性の少ないナマコの筋肉において、不用意にアクチンとミオシンが相互作用しATPエネルギーが消費されるのを抑制する役割を果たしている可能性も考えられた。 以上のように平成25年度は、棘皮動物筋の収縮調節の分子機構に関連した複数の新規知見を得ることができた。従って研究目的の達成は、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
トロポニンは、トロポニンIおよびトロポニンTの他に、Ca2+結合サブユニットであるトロポニンCが3成分複合体を形成して筋収縮のCa2+調節を行う。しかし、キタムラサキウニ顎骨間筋には、これまでトロポニンCが見出されておらず、また、アメリカムラサキウニ・ゲノムプロジェクトにおいても、トロポニンCの遺伝子は同定されていない。3成分複合体としての機能を解析するため、今後は、キタムラサキウニよりトロポニンCの探索を行う必要がある。そこで、Yeast Two-Hybrid systemおよび免疫沈降法によって、SN-TnIまたはトロポニンTと相互作用するタンパク質の探索を行うことを計画している。そして、トロポニンの3つのサブユニットのcDNAがクローニングできた場合には、トロポニンTやトロポニンCについても大腸菌発現を行い、試験管内で、Ca2+依存的なサブユニット間相互作用の変化や高次構造の変化を解析して、キタムラサキウニ・トロポニンが筋収縮を調節する分子機構を明らかにする。そしてそれが、これまで知見が蓄積されてきた脊椎動物、軟体動物および節足動物のものとどのように異なるか比較検討を行う。 一方、今回、SN-TnIの筋収縮阻害活性は乏しく、無脊椎動物トロポニンCとの結合性も低いことが明らかとなった。このことは、棘皮動物トロポニン・サブユニットが筋収縮調節以外の機能を担う可能性も示唆している。そのため、顎骨間筋以外の組織についてもトロポニン・サブユニットの発現や局在を解析してその可能性を検証する予定である。 また、マナマコ体壁に含まれるアクトミオシンMg-ATPase活性の阻害成分について、同定を確実にするとともに完全精製を行い、試験管内で阻害の作用機序の解析を行う。さらに阻害成分の細胞内での局在についても明らかにして、この阻害の生理的意義を解明する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度において少額備品を新規購入することを計画し、経費を繰り越した。 大半を消耗品費として使用するが、ウニの幼生を培養するための小型のインキュベーターおよび試料保管用の小型冷蔵庫を購入する予定である。
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