最終年度は、キタムラサキウニ・トロポニンT(TnT)を大腸菌発現で調製し、試験管内で機能を調べた。ウニのTnTは、脊椎動物のTnTと同様にトロポミオシンと結合することが共沈実験によって確認された。また、前年度までに調製したトロポニンI(TnI)の収縮阻害作用を増強する特性を持っていた。さらに、TnT、TnIおよびキタムラサキウニ・カルモジュリン(CaM)を1:1:1のモル比で混合すると、脊椎動物トロポニンと同様に、アクトミオシンのMg-ATPase活性をCa2+依存的に活性化した。このことから、棘皮動物のトロポニンは、筋収縮の調節を行えること、さらに、Ca2+結合サブユニットとして、トロポニンC(TnC)ではなくCaMを構成因子とし得ることが明らかになった。また、キタムラサキウニTnIのC末端が短く、TnC結合部位やアクチン結合部位として知られる領域が存在しない特徴を前年度までに報告したが、それにもかかわらず調節能が認められたことは、ウニのトロポニンが、従来から知られるものとは異なる分子作動機構によってアクチンとミオシンの相互作用を調節することを示唆していた。 一方、キタムラサキウニ顎骨間筋、マナマコ体壁縦走筋、およびマヒトデ管足から天然アクトミオシンを調製し、特性を調べた結果、いずれもニワトリ砂嚢ミオシン軽鎖キナーゼとCaMの存在下で、Ca2+依存的にMg-ATPase活性が増大した。また、ウニのアクトミオシンのみトロポニンを含むことがウェスタンブロッティングによって示されたが、その存在量は微量であった。これらの結果から、棘皮動物の筋肉の収縮調節は、脊椎動物の平滑筋と同様、ミオシン軽鎖のCa2+依存的なリン酸化によって行われ、トロポニンの寄与は大きくないと推測された。
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