研究課題
魚類の主要な蓄積脂質はトリアシルグリセロール(TAG)で,その貯蔵部位は肝臓,筋肉および脂肪組織である。これまでの研究から,筋肉のTAGは肝臓や脂肪組織から輸送されてきたものであることが示唆されている。本研究では,TAG輸送に関わる分子およびそれを制御する内分泌系を明らかにすることを目的とした。本研究ではまず,TAGの分布が多様かつ種特異的であることを,複数の魚種を対象とした脂質染色実験で明らかにした。次に,TAGの分布が異なるマダイ,トラフグ,ヒラメ,メダカなどを対象に,血液中の脂質の分析および各種リパーゼの発現解析を行ったところ,筋肉にほとんどTAGを蓄積しないトラフグでも血中TAGは十分に存在すること,組織への脂質の取り込みを行うリポタンパク質リパーゼ(LPL)の発現量がトラフグ筋肉で著しく低いことが明らかとなった。また,絶食などにより筋肉のTAG含量を変化させた場合には,TAG含量とLPLの発現変化に相関がみられた。以上の結果から,組織からの脂質放出量に種間差は少ないこと,筋肉への脂質取り込み量の違いが脂質分布を左右する主要因であることが示された。次に,LPLおよび脂質の放出に重要なホルモン感受性リパーゼ(HSL)の発現を制御する内分泌系について検討した。組織培養およびホルモン投与実験により,これらはいずれも成長ホルモンによる発現制御を受けることがわかった。成長ホルモン受容体の組織分布との関連性を考察した結果,当該ホルモンに対する各組織の感受性が魚類の脂質分布様式を決定している可能性が考えられた。以上の結果は,魚類の脂質代謝に関する基礎的知見を提供するとともに,成長ホルモンシグナルに影響を及ぼす摂餌量や塩分などを検討することで,魚類の脂質分布を制御できる可能性を示しており,基礎および応用の両面で水産業に資するところが大きいと考えられる。
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