研究課題/領域番号 |
24580302
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
足立 亨介 高知大学, 教育研究部自然科学系, 准教授 (00399114)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 甲殻類 / 色素タンパク質 / カロテノプロテイン / クラスタシアニン / アスタキサンチン |
研究概要 |
甲殻類は緑青色から赤燈色まで様々な体色を呈するが、これは外骨格中に含まれるクラスタシアニン(CRCN)と呼ばれる色素タンパク質によるものである。本タンパク質はCRCNAおよびCと呼ばれる異なる2分子のサブユニットが2分子のカロテノイドと非共有結合した基本構造を有し(このため別名カロテノプロテインとも呼ばれる)、加熱するとタンパク質の変性により放出されたカロテノイド本来の色が呈される。この変色は一般にBathochromic Shift(BS)と呼ばれている。CRCNは良く知られたタンパク質であるが、その知見はヨーロピアンロブスターを中心とした数種のものに限られている。しかも多くの報告がX 線結晶解析やNMR を用いた物理化学的な立体構造解析に関するものであり、CRCN の最も特徴的な性質である色そのものの多様性やBS に主眼を置いたものは驚くほど少ない。また、同種での報告は外骨格より精製されたNativeなタンパク質が用いられており、組み換え体での研究例はこれまでになかった。 報告者は研究対象とされてきたCRCN に結合するカロテノイドがアスタキサンチン(Asx)のみであることに着目している(それゆえ甲殻類はゆでると全て赤くなる)。この事実はCRCNの色彩多様性は色素部位であるAsxではなく、アポタンパク質側の構造に依存したものである可能性を意味する。以上からCRCNを組み換えタンパク質として発現させ、Asxと再結合させる系を確立できれば、アポタンパク質側に点変異を起こすことで多様な色彩を有するCRCNを人為的に作り出すことができると考えられる。 本年度はクルマエビを用いてCRCNの粗精製、そのcDNA全長配列の入手、組み換えタンパク質発現系の構築、およびAsxとの結合条件の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
クルマエビ外骨格よりカロテノプロテインの粗分画を行い、本タンパク質の生化学的な特性を検討した。得られたCRCN画分は640nmに吸収極大を持つ吸収スペクトルを示した。本画分を用いたSDS-PAGE解析においては分子量約78k、69k、および20kのバンドが確認された。60℃以上、pH2-4、およびpH10で処理をしたCRCN画分は吸収スペクトルの吸収極大が485nmに見られ、クルマエビCRCNが深色移動を起こすことが確認された。 またクルマエビの尾扇由来のRNAを用いて5’および3’RACE法にてCRCN AおよびC cDNAの全長配列を入手し、これをタンパク質発現ベクターに組み込んだ。CRCN AならびにC、各々のORFおよび類推されるアミノ酸残基数は、570bpおよび190aa、ならびに679bpおよび197aaであることが明らかになった。さらにCRCN A、Cともに変異の見られる複数種類のサブクラスを確認した(何種類あるのかは未同定)。また、500mlの培養液を用いた組み換え発現系より上記2種のタンパク質を約250μgを入手後、SDS-PAGE解析によって両者ともに約19kDaと38kDaの位置に明瞭なバンドを得ることが出来た。本研究により同種の甲殻類において初めてCRCN AおよびC、2種類の遺伝子を単離し、両者のタンパク質発現系を確立することが出来た。しかしながら、現在は得られた組み換えタンパク質とAsxとの結合条件を検討している段階であり、再結合を目標とした当初の予定より若干遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では今年度にCRCNの配列を入手後、組み換えタンパク質発現系を構築し、得られたタンパク質をAsxと結合させて、その特性をクルマエビ外骨格より粗精製したCRCNと比較する予定であった。しかしながら、現在までのところ配列入手と発現系の構築には成功しているものの、組み換えタンパク質をAsxと結合させることは出来ていない。理由として、結合条件が最適化されていないこと、発現タンパク質のフォールディングの問題、さらにサブユニットの組み合わせの特異性の問題が考えられる。結合条件とフォールディングの問題については各々既報のNativeのタンパク質を用いた条件を中心に再検討、および宿主を代える、などして対応する。サブユニットの組み合わせに関しては、今年度の成果において、クルマエビCRCN AおよびCサブユニットとも複数のサブクラスを有することが明らかになった。ロブスターCRCNの例ではこのサブクラス間の結合には特異性(CRCNA1サブユニットはC1とは結合できるが、C2とは結合しない、など)があるとされている。同様のことがクルマエビの組換えタンパク質でも考えられるため、本種のもつ全CRCNサブクラスの同定、発現系の構築を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
申請内容と同スペックの分光光度計を計画より安価に入手できたために若干の繰り越し金額(111,432円)が出た。このことによる大きな計画の変更はない。ただし、上記の理由により次年度はまず組み換えタンパク質とAsxの結合条件を確立し、その後当初予定していたCRCNのランダムミュータジェネシスに移る。
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