研究課題
甲殻類は緑青色から赤橙色まで様々な体色を呈するが、これは外骨格中に含まれるクラスタシアニン(CRCN)と呼ばれる色素タンパク質によるものである。本タンパク質はCRCN-A、およびCRCN-Cと呼ばれる2種類のサブユニットが2分子のカロテノイドと非共有結合した基本構造を有し、加熱するとタンパク質の変性により放出されたカロテノイド本来の色が呈される。報告者は報告されてきたタンパク質に結合するカロテノイドがアスタキサンチンのみであることに着目し(それ故甲殻類はゆでると皆赤くなる)CRCNの色彩多様性が色素部分のAsxではなく、アポタンパク質側の構造に依存したものであると推察している。それ故、CRCNを組み替え体として発現させ、Asxとして再結合させる系を確立できれば、アポタンパク質側に点変異を起こすことで多様なCRCNを人為的に作り出すことができると考えられる。このような背景のもと昨年度までに我々はクルマエビを用いてCRCN-A、およびCRCN-Cの大腸菌による組み換えタンパク質の作出に成功している。しかしながら、これらを用いたカロテノイドとの再構成には至っていない。ヨーロピアンロブスターCRCN-A、およびCRCN-Cには過去にタンパク質の電気泳動によって各々3種のパラログの存在が知られている。また、同種では基本構造を形成する上で組み合わせに特異性があることも知られているものの、そもそもすべての甲殻類において両サブユニットで何種類のパラログが存在するかさえ明らかになっていない。今年度はCRCN組み替えた体とAsxの再構成条件を検討する過程で、このCRCNパラログの種類数に関し本研究推進にあたり重要かつ新規な情報を得たので、そちらに重点をおいた考察を行った。
3: やや遅れている
PCRによりCRCN-Cと推察される配列が45クローン得られた。このうち4種8クローンが同一配列で合計41種類のcDNA配列が得られ、34種が予想される全長を含み、Splicing variantと推察される配列が2種類、1塩基のみ欠失している配列が5種類確認された。全長を含む複数のパラログ遺伝子は同義置換を起こしており、翻訳すると合計23種類のアミノ酸配列が得られた。ヨーロッパロブスターで確認されている同分子のAsx結合部位 (TyrおよびHis)は全長を含む全てのパラログ遺伝子に保存されていた。以上からクルマエビCRCN-C パラログ遺伝子が想定よりはるかに数多く存在することが示唆された。CRCN-Aにおいても同様の結果が期待されるが現在詳細は解析中である。予定では再構成実験は24年度に完成している予定であり現状では研究の遂行は遅れているといわざるを得ないが、上記の事柄は他種生物でも報告例のない内容である。さらに再構成条件を検討する上で必須の事実でもある。
CRCNパラログ遺伝子の多様性に関しては次世代型シークエンサーを用いて解析する。また、組み換えタンパク質の再構成実験については、すでに確立した系への点変異の導入を行うとともにBiacoaを用い、Asxと組み換えタンパク質の実際の相互作用という観点からも考察する。
平成25年度は配列解析が中心となりPCR、DNAシークエンシングといった一般的な実験に必要な試薬の購入のみにとどまっている。最終年度はNGSやbiacoaといったより高額な試薬を必要とする実験を予定している。クルマエビ外骨格で発現するmRNAをNGSによって解析することによりCRCNサブユニットの多様性を解析する。Biacoaを用いて組み換えCRCNとAsxの相互作用を解析する。
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Fisheries Sci
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DOI 10.1007/s12562-014-0737-7