本研究の目的は、食品に関する事件・事故の発生に際して、当該企業をはじめとする食品関連企業の株価変動の解析を通じて、株式市場の反応を国際比較の視点から明らかにしようとするものである。同時に、実証分析から理論モデルへのフィードバックを通じたモデル改良と、実証分析のためのソフトウェア開発も行うこととしている。 研究期間においては、(1)日本の外食産業に属する上場企業を対象として、統計的仮説検定による急激な株価変動の析出とその要因分析、(2)株式市場と対比する目的で、日本におけるコメ先物価格と国際商品であるトウモロコシ先物価格を対象として、ジャンプ状の変動を呈するタイミングと要因の分析を行った。分析結果から、(1)食中毒事件やBSE発生などの食品安全性に関する情報よりも、企業業績に直接係る財務情報に株価はより強く反応すること、(2)コメ先物価格は、現物市場における需給動向とは無関係に変動しているわけではないこと、株式市場と比較して市場流動性が低いためにジャンプ状の価格変動が発生しやすいこと、(3)トウモロコシ先物価格におけるジャンプ状の変動は、ほとんどが原産地である米国の需給情勢や、シカゴ市場における価格変動に起因するものであることが明らかとなった。 最終年度においては、主として、これまでの実証分析で得られた知見に基づき、解析用ソフトウェアの改良を中心として研究を実施した。その成果を国際的な統計関連学会での招待講演として発表したところ、聴衆から一般的な統計解析の枠組みにも利用可能になるよう、ソフトウェア利用上のさらなる改良点の提案を多数受ける結果となった。 研究期間内では、解析用ソフトウェアはインターネットを通じて公開されているが、ユーザから寄せられた要望に応えた上で、ピアレビューを経た成果となるには至っていない。研究期間終了後も引き続き改良を続けていく予定である。
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