前年度までの研究により、中国・アジアを中心とする食料市場の飛躍的発展が、新たなバイオテクノロジーによって生みだされた野菜等の新品種の経済的価値を増大させていることが明らかになった。それをふまえて、27年度の主要な研究課題として、次の2点を設定した。 1.バイオメジャー、大手種苗会社、公的育種、農民的育種の特徴と知的財産の関連性を整理すること。2.食料市場の拡大で大きなウェートを占める食肉生産において、その飼料作物に対して、植物知的財産権がどのような役割を果たしているか明らかにすること。 1の階層的な育種構造については、バイオメジャーのGMOによる穀物市場独占と特許による知財保護、大手種苗会社の特許で保護された先端的育種技術による野菜等のF1品種開発と市場独占が顕著となり、既にUPOV条約下の育成者権により知財保護が副次的なものとなりつつある。また公的育種による稲等の主要穀類の開発については、国策によって高度なバイオ育種技術が用いられており、中国・インドなどの大規模市場においては、GMOとの競争関係を指摘することができる。その一方では、Local Varaietyの消滅の危機と闘う NPO等による農民的育種と種苗流通の再建努力をみることもできる。2.については、中国市場に絞って調査研究を実施したが、その結果、RR大豆輸入が7000万トンにも及び、搾油後の大豆粕が高い割合で飼料に配合されていたこと、またバイオエタノール用トウモロコシのDDGSも多く配合されており、飼料穀物分野でもバイオメジャーのGMOと中国食肉生産が密接に関連しており、植物知財のうち特許を用いたものが重要な役割をもっていることが明らかになった。 以上、東アジアを中心とした急速な食料市場の拡大に伴って、従来の育成者権=UPOV条約の枠組から、特許権による保護へと植物知的財産権の変化が明らかになった。
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