本研究における研究成果は、次の通りである。 「理論シミュレーション分析系」および「統計データ実証計測系」では、農林水産省統計部から農業経営調査の個票を統計法に基づき申請し、入手して分析した。戸別所得補償及び転作作物への直接支払(旧名称「転作奨励金」)を予備的に分析したところ、その支払い実態が通達とは著しくことなっていることが明らかとなった。このため、分析はそこからスタートした。 通達通りに支払われたと仮定した場合の規模別の面積当たり支払い単価を理論的なシミュレーションにより、理論値として算定し、規模間の傾斜係数を算出した。これと比較して、実際のデータにより支払単価の傾斜係数を算出し、比較した。実際のデータでの分析では、戸別所得補償制度への参加率も併せて、ヘックマンモデルにより推定した。前者の理論値による傾斜係数は、0.14程度、後者は0.14程度で、全層の比較では、ほとんど差がなかった。即ち、通達通りの運用であった。ところが、1ha以下の階層に限定して、再計算したところ、理論値では0.35程度、実績値では、0.24程度であった。即ち、かなりの小規模優遇が行われていた。こうした実態を反映して、農業政策の受益の生産要素への「後方転嫁」とその「帰着」を計測すべきことが明らかとなった。 これを踏まえた同じくヘックマンモデルにより、戸別所得補償の農地の貸し手への帰着を算出したところ、その値は、0.3~0.5程度であることが明らかとなった。しかし、その前提や弾力性の仮定等により、大きく異なるものであることもまたわかってきた。今後は、本研究成果を活用して、さらなるシミュレーションと実証分析の連携によって、数値の絞り込み等を進めていく必要がある。 一方、実際の現場での動きとしては、全国農業会議所の協力を得て、調査を進め、おおむね六年に一度程度の地代の改定頻度であることがあきらかとなった。
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