本研究の目標は,地域マーケティングにおけるソーシャル・キャピタルに着目し,①地域住民間及び都市住民と地域住民間のソーシャル・キャピタルの形成,②地域住民のマーケティング力や都市住民の需要行動に及ぼすソーシャル・キャピタルの効果を行動科学的方法論に基づいて定量的に検証することである.この目標のために,当該年度は,以下の取り組みを行った. 地域への愛着やロイヤルティが形成される契機として旅行行動を取り上げた研究がみられる.しかし,地域住民と旅行者(都市住民)の間に形成されると予見される「旅行地の人に対する愛着(対人好感意識)」と「関与概念に基づくロイヤルティ(ファン意識,マニア意識)」については十分に検討されていない.さらに,地域から供給される「人に関わる旅行価値」や「物に関わる旅行価値」と地域感情やロイヤルティとの関係もまた十分に検討されていない.そこで本研究では,旅行行動に基づく地域への愛着とロイヤルティに関する構造方程式モデルを同定することを目的とした. データには,①石見銀山滞在と②松江城を含む旅行に関する訪問者アンケート調査結果(2015年9-10月,n=545,792)を用いた.同定したモデルから,①対人好感意識は,ロイヤルティを形成するがその働きが対物好感意識と比べて小さいこと,②マニア意識は,地域愛着から形成され,また利他行動意向に結びつきやすいため,構造と効果の点から重要な役割を果たすこと,③人に関わる旅行価値よりも物に関わる旅行価値の方が地域愛着やロイヤルティの形成に結びつきやすいことが明らかになった.
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