研究課題/領域番号 |
24580333
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
並河 良一 帝京大学, 経済学部, 教授 (80313964)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ハラル / 食品市場 / WTO / 東南アジア / 中東 / オーストラリア |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、食品のハラル制度が国により異なるのは、宗派・社会構造の相違だけが要因ではなく、制度が経済や食品産業の特性の影響を受けることも要因であることを明らかにすることである。このため、特徴あるハラル制度を有する国として、非イスラム国を含む5カ国(マレーシア、インドネシア、シンガポール、オーストラリア、エジプト)を選び、各国のハラル制度の比較検討を行い、ハラル制度と経済・産業の関係を明らかにすることとしている。 平成26年度は、これまでに収集した対象5カ国の資料/情報から各国間のハラル制度の相違を体系的に明らかにする分析作業に重点を置いた。また、昨年度の報告書で示したとおり、海外では、シンガポールおよびマレーシアで市場調査を継続し、ハラル認証製品の流通動向について、追加情報を収集した。 さらに、ハラル制度と経済・産業の関係を多面的に理解するために、研究実施前には想定していなかった4つの分野の補足情報の収集も行った。第1は、産業構造における農業の比率の高い国における農産物の認証動向である。第2は、制度内容が宗教的で、経済・産業の影響を受けにくい食肉処理分野の情報である。第3は、経済成長の影響を受けやすいと考えられる化粧品分野の情報である。第4は、社会主義経済体制下において、宗教活動の制限の影響を受けた中央アジアのハラル情報である。 これまでに収集した文献資料および現地調査で収集した各種資料をとりまとめて、ハラル制度の国際比較、制度による市場開発の阻害状況などについて、企業の実務者向けの総説・解説を執筆・投稿し、いずれも食品分野の経済誌に掲載された。また、大学における学術講演だけでなく、研究成果の普及を図るために、自治体・企業の実務者向けの講演も積極的に行った。さらに、政府のハラル市場開発のための各種委員会にも積極的に参画して、これまでに得た知見を開示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の3年目である平成26年度までに、当初予定どおり、対象国5か国(マレーシア、インドネシア、シンガポール、オーストラリア、エジプト(トルコに変更))の実地調査を行い、資料/情報の収集を行った。各国からハラル認証製品が流入するシンガポールについては、複数回の調査を実施し、製品の画像情報を含めて有益な市場情報を得ることができた。 平成26年度は、これまでに収集した対象5カ国の資料/情報から各国間のハラル制度の相違を体系的に明らかにする分析作業を行った。海外の資料/情報を、日本国内で収集した情報/資料、WEBを通して得た資料/情報収集で補強して分析作業に供した。その結果、各国の経済・産業とハラル制度の関係には、定性的ではあるが、ある程度の相関性を見出すことができている。 また、当初は想定していなかった補強資料/情報を収集し、相関性を示唆する事実を見出している。第1に、シンガポール市場では、周辺途上国からの輸入精米や製粉等の低次加工の農産物にハラル認証が見られる。第2に、食肉処理過程の電気ショックの使用については、経済成長を遂げた国では、条件付で容認しているケースがある。第3に、化粧品のハラルに対する意識は、経済成長を遂げた国において見られる。第4に、ソ連時代に社会主義経済圏にあったタジキスタンでは、ハラル食品に対する意識に世代間の差異が見られる。 研究成果は積極的に発表してきた。当初の予定を超えて、2冊のハラル制度に関する専門書を執筆・出版した。また、ハラル制度の国際的不整合性を含む制度の難しさに焦点を当てて、多数の解説・総説を執筆・投稿し、これらが食品関係の経済誌に掲載された。学術報告、企業実務者への講演も多数行った。さらに、政府(農林水産省)、産業団体のハラル市場開発のための各種委員会にも積極的に参画して、これまでに得た知見を開示した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度までの3年間は、おおむね予定どおりに研究が進んだため、最終年度である平成27年度における推進方策は、大筋において、当初予定と大きな変化はない。平成27年度には、これまでに収集した資料/情報および同年度に追加収集した資料/情報を解析して、ハラル制度の内容・運用が経済・産業の影響を受けていることを明らかにする。 ただし、結論に至るプロセスとして、これまでの報告書で言及したとおり、各国のハラル制度の時系列変化、制度・運用の国際比較以外の要素も検討することとする。具体的には、市場におけるハラル認証商品の流通動向、対象国以外のハラルに対する考え方、化粧品など食品以外の製品のハラル認証動向なども検討資料として利用する。 研究成果については、すでに専門書の出版、経済誌における総説・解説の掲載、学会等における学術報告を行っている。今年度は、同専門書の改訂版を計画しており、その中で本研究の最終年度の成果も報告する予定である。学会等における学術報告も行いたいと考えている。さらに、これまでと同様、経済誌への投稿、自治体・企業実務者への講演、政府・産業団体のハラル市場関連の各種委員会への参画・協力などを積極的に行い、研究成果の普及に努める。 推進方策の中で、再検討する可能性のあるのは、次の点である。 平成27年度には、より充実した資料/情報を収集するため、シンガポールにおける追加調査を行う。過去2年の報告書でも記載したとおり、完全な自由貿易国家であるシンガポールの食品市場には、予想を超える多様な国のハラル製品が流通していることがわかり、同国での調査が本研究に有益であることが明らかになったからである。その他の対象国についても、必要に応じ追加調査する。国際学会での報告は研究期間終了後にしたいと考えている。
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