熱帯地域の稲作農業において多期作化が増産に直結するのは言うまでもないが,一般に乾季における水供給は潤沢ではななく.限られた灌漑水量のもとで乾季作を実現するのは容易ではない。タイ・チャオプラヤデルタ地域においては,1960~1970年代の大規模事業の後しばらく乾季作の拡大は停滞していたが,2000年前後から急速に多期作の進展が見られた。そこで,チャオプラヤデルタにおける米多期作の実現を支えた要因の解明を試みた。 チャオプラヤデルタの灌漑事業地区(計4地区)において,水利用実態と圃場水収支に関する現地調査を実施した結果,灌漑システム全体の灌漑効率の高さが末端圃場レベルでの高灌漑効率に依存していること,またそれによって限られた灌漑水量のもとでの乾季稲作が可能になっていることが明らかとなった。また,高い末端灌漑効率には,末端圃場水路整備による水アクセスの向上とポンプの効率的利用が大きな役割を果たしていることがわかった。一方,米の品種に関しても調査したところ,2000年前後からタイで独自に開発した多期作向きの高収量品種が登場,普及したことにより,農民の多期作への意欲が大きく刺激されたことも大きな要因であると考えられた。 これらの知見は,今後の多期作の展開が見込まれるカンボジアやラオスなどの国々における灌漑稲作の発展に大きく寄与するものであると考えられる。
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