研究課題/領域番号 |
24580352
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
渡邊 裕純 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80323757)
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研究分担者 |
加藤 亮 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (10302332)
五味 高志 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30378921)
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キーワード | 水田 / 農薬 / モデル / 流域スケール / シミュレーション / SWAT / PCPF-1 |
研究概要 |
1.流域スケールでの水稲用農薬の動態予測モデルシステムの検証(国内編): 本年度は、水・物質循環モデルSWATをプラットフォームとした新規開発モデルPCPF‐1@SWATの改良を行った。水稲用除草剤メフェナセットを対象農薬とし茨城県桜川流域での水稲用農薬の動態シミュレーションの検証を行った。2006年および2007年度データによるモデルキャリブレーションの結果、PCPF‐1@SWATモデルによる水田集水域を含む流域での河川流量に関して,水田灌漑期の水田排水による影響および非灌漑期の低い基底流が精度よく再現された。桜川下流域での2008年度の水稲用除草剤メフェナセットの河川水中濃度の検証においても,良い精度で再現された。モデルの予測精度は,農薬使用データの精度に大きく影響を受けることが示された。 2.カリフォルニア水田環境での農薬動態のモデル化: H24年度に取得した,カリフォルニア州,サクラメント川流域の全長約120kmのカルサ排水路にかかる約4000km2の集水域(Colusa Drainage Basin)の土地利用,農薬使用,水路網等のデータベースによりをもとにPCPF@SWATによる農薬動態のモデル化を行った。また,水稲用除草剤モリネートとチオベンカルブを対象としカリフォルニア州のコメ生産マニュアルを基に稲作の水管理,土壌管理,農薬管理のシナリオを構築した。次に,カルサ排水路の中流と下流における流量および河川中農薬濃度の構築したデータセットを用い,1996-1998年をデータによりカルサ排水の流量再現のモデルカリブレーションを行った。また,1999-2000年データにより農薬濃度のシミュレーションを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題「流域圏水・物質循環モデルを用いた水稲用農薬の動態評価システムの開発」の現在までの達成度は,80%とする。本システムは、基本モデルの構築、パラメータ設定用逆解析モジュール、モデルパラメータデータベースからなるが,基本となるモデルは完成し,国内シナリオでの検証を経て,カリフォルニア州での適用の段階である。モデルパラメータデータベースの構築を経て,現在パラメータ設定用逆解析モジュールの改良・調整中である。詳細は以下のとおりである。 1. 流域スケールでの水稲用農薬の動態予測モデルシステムの検証:新規開発モデルPCPF‐1@SWATの構築を完成し,水稲用除草剤メフェナセットと対象農薬とし茨城県桜川流域での水稲用農薬の動態シミュレーションの検証を行った。モデル検証の結果を東・東南アジアSWAT国際会議(インドネシア)にて発表した。また,この投稿論文がJournal of Hydrology (IF=2.96)に受理された。モデルパラメータデータべ―スに関しては,基本モデルのPCPF-1モデルにより検証された4薬剤に加え,水田ライシメータにより定量した農薬2剤,カリフォルニア水田でのシミュレーションに用いた2薬剤を準備した。パラメータ設定用逆解析モジュールを構築し,改良中である。 2. カリフォルニア水田環境での農薬動態のモデル化:カリフォルニア州,サクラメント川流域における排水路流量および水路中の農薬濃度のシミュレーションの結果は,フランスで開催されたSWAT国際会議にて発表した。 3.モデル検証に使用する除草剤の動態パラメータの定量:水田ライシメータを用いた試験による水田除草剤の動態に関する投稿論文が受理されそのデータを用いてデータベースを構築した。また育苗箱施用殺虫剤の土壌中分解試験を行い,分解パラメータを求めた。
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今後の研究の推進方策 |
1.流域スケールでの水稲用農薬の動態予測モデルシステムの構築:現在構築が進められているパラメータ設定用逆解析モジュールの構築では,SWATモデルに使用されているモジュールSWATCUPを適用し,モデルパラメータ値の最適化手法を用い,PCPF-1モデルの基本構造に準じて構築した。計算値の再現性の問題があり現在検討中であるが,この問題において,原因の解明とモデルプログラムの改良を進める。 2.カリフォルニア水田環境での農薬動態のモデル化:カリフォルニア水田の灌漑排水組織が非常に複雑で、詳細データを把握するのは難しい。PCPF‐1@SWATが等高線データと水文現象による流量再現を行うのに対し,現地の排水路網では,用水の分配が人為的に複雑に行われ,降雨等に応答した流量が観測されなかったことが原因である。したがって、今回の研究でのPCPF-1@SWATモデルによるカリフォルニア水田への適応に関する方針として、サクラメント川流域の水田農薬動態モデル化のフレームワークと位置づけ、まず簡素化したモデル化により対象河川(カルサ排水路)の水収支および河川流量シミュレーションを試みる。水移動の再現が可能になったシナリオを基に農薬動態シミュレーションを行う。 現在本研究課題は,更なる水田環境動態・物質循環モデルの構築を目標とする国際的共同研究として発展している。東・東南アジアSWAT国際会議(インドネシア)では,農業生産や環境影響評価の需要な対象地域である水田環境の重要性とSWATモデルにおける水田集水域における物質動態シミュレーションを可能とする稲作モジュールの開発に関して議論された。それを受けて米国農務省および国際的研究グループと稲作モジュールを共同開発してゆくことが決められた。2014年度の国際ワークショップ,2015年度のSWAT国際会議を日本で開催予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品購入見積もり時と納品金額に差額が生じたため。 金額が少額なため,全体的使用計画に大きく影響しない。
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