研究課題/領域番号 |
24580354
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
紙谷 智彦 新潟大学, 自然科学系, 教授 (40152855)
|
研究分担者 |
吉川 夏樹 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (90447615)
|
キーワード | 農業用水路 / 水湿生植物 / 水路構造 / 出現規定要因 / NMS / GLMM |
研究概要 |
日本では、水生植物の約40%が絶滅の危機に瀕しており、また、かつての水田雑草の希少種化が懸念されている。こうした水湿生植物を保全するためには、潜在的な湿地環境である水田地帯における水湿生植物の現在の出現パターンを明らかにする必要がある。 本研究は、これまでに大規模な調査例がほとんど無い農業用水路に焦点をあてた。農業用水路はその構造や階層の組み合わせにより、多様な環境を創出していると考えられる。そこで、本年度の研究では、農業用水路の構造及び階層の違いが、水路内に出現する植物の種数および種組成に与える影響を明らかにすることを目的とした。 調査は越後平野中西部の農業用水路151本で行った。連続する1㎡の調査区を小水路で10個、支線水路で60個ずつ設置した。初夏と秋に、各調査区内に出現した水湿生植物の種名を記録した。調査した水路はそれぞれ構造を記録するとともに、水路高、幅、水深および土厚を計測し、水路内の江ざらいの有無に関する聴き取り調査を行った。 調査の結果、合計82種の水湿生植物が記録された。水路間の種組成の類似性を明らかにするため、NMSを用いて水路を序列化した結果、土水路は水路間で種組成が類似する一方、コンクリート水路は小水路、支線水路ともにばらつくことが分かった。次いで、水湿生植物の出現規定要因を明らかにするため、出現種数を応答変数、各要因を説明変数として、コンクリート水路に対しGLMMで解析したところ、小水路では秋季水深が、支線水路では初夏の水深が、それぞれ負の効果をもたらしていた。 今後、これらの結果をもとに、水湿生植物の生育地として望ましい水路環境について検討する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画のとおり、研究対象とする水路を末端水路から幹線支水路に拡大した。そして、25年度の研究計画に沿って、1.幹線支水路における植生調査 2.幹線支水路における環境因子調査 3.出現数特定のための回帰木分析 4.一般化線形モデルによる出現頻度と環境因子の関係把握 5.幹線支水路モデルの構築を行った。 これら研究計画にそって実施し、予定していた成果があげられたことから、現在までの達成度は、おおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
25年度までの研究で、特定の環境条件下にあるコンクリ水路と土水路に出現する水湿生植物の多様性の高さと、絶滅が危惧される希少種が確認された。特に土水路については、水路底が土地に接していることから、かつての土地履歴(湿地)の影響が強いことが予想された。さらに、水路が位置する流域の違いは、個々の河川が有する水湿性植物種数のバックグラウンドとなる。 そこで、最終年度では広域スケールでの水路が位置する地形(凹凸)と流域(河川)の違いに焦点をあて、水湿生植物の保全を図る際に必要な条件を、水路スケールと景観スケールの両面から総合的に把握し、具体的な保全のあり方を提案することを目的とする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初計画の一部にあげていた水路スケールでの実験的な検討を見直し、広域スケールでの水路評価に重点を移したことにより、使用残が生じた。次年度では、新たに水路が位置する地形と流域の違いに焦点をあて、水湿生植物の保全を図る際に必要な条件を、水路スケールと景観スケールの両面から総合的に解析する。特に潜在的に水湿性植物が豊富な土水路の位置情報を把握し、保全すべき水路と具体的な保全のあり方を提案するために予算を使用する。 水路が位置する地形と流域を調査するための調査用具に物品費、調査補助のために謝金を使用する。 最終報告のためのデータ整理に謝金、調査結果を学会で報告するために旅費として使用する。
|