最終年度では広域スケールでの水路が位置する地形(凹凸)と流域(河川)の違いに焦点をあて、水湿生植物の保全を図る際に必要な条件を、水路スケールと景観スケールの両面から総合的に把握し、具体的な保全のあり方を提案することを目的とした。 その結果、湿地跡地に位置していた土水路は有意に標高が低かった。地形解析の結果から、土水路を山地形、平地形、段地形の3つにタイプ分けした。10月の総種数と越年生種数に水路標高と種数に負の相関があった。標高の低い平地形タイプでは10月の総種数と水路標高の間に最も高い負の効果があった。水系では、種数-水路曲線から6月と10月において、最も総種数が多かった西川で最も高い正の効果をもっていた。 研究期間全体を通じて、農業用水路内に出現する植物は、構造の違いにより大きく異なることが明らかとなった。水湿生植物の生育地として農業用水路を活用する際、現存する土水路をそのまま維持管理することが有力な手段だと考えられた。コンクリート水路では、通年の底土が維持できる環境を部分的に創出するなど、管理工夫が求められる。また、小水路は主に湿生種の生育地として、種多様性保全を図るべきである。管理工夫が困難な支線水路では、水生種のように水中での生活に長けた種を対象に、特定の種の生育地として改良を加える方が効果的である。 本研究の成果によって、低地水田地帯の農業用水路網における植物の出現特性の概要を把握することができ、それにもとづいた農業用水路を生育地として活用するための提案を行った。
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