前年度までに、兵庫県東播磨地区、特に明石市のため池群を対象に実施したアンケート調査の結果に基づいて、ため池の維持管理に対する担い手の参加意欲に関する各種の分析を行った。共分散構造分析を用いて、池ごとに参加意欲の構造に違いが見られること、そして農家と非農家との間にも明らかな構造の違いがあることが分かった。この分析結果を精査し、農家については池(=水利施設)から受ける便益が、非農家については池を含む居住地域の特性が、参加意欲の構造に影響するという仮説を立てて検証を行った。 非農家の参加意欲の構造には、多面的機能認知が特徴的な要因として見出された。それは宅地化の進展などの土地利用の変遷と、地域の営農状況と関連していることが明らかになった。すなわち、農地をとりまく地域のコミュニティのあり方と、ため池が本来の水利施設としての機能をいかに発揮しているかが、非農家の参加意欲に大きく影響するものと結論づけられた。 農家の参加意欲の構造については、非農家と同様の観点では有意な差異が見出されなかったため、より規模の大きな農業農村整備事業である吉野川分水を対象にして、事業(=水利施設の整備)によってもたらされた便益と事業に対するコスト負担との関係を整理し、事業実施当初における受益者の意識からの変化の方向性を探った。近年では広義のコストが便益を上回る可能性も指摘され、いかに受益農家の施設に対する価値観を高めるかが今後の課題であることが示唆された。 以上より、農業水利施設の価値は、一義的には農家のコスト負担と便益とのバランスを適正に保つことで高められると結論づけられた。しかしながら、今後の維持管理等においては非農家の参画が必要不可欠であるため、地域社会の歴史的な変遷を考慮しつつ、健全な営農を継続していくことが、非農家にとっても施設の価値を高めることにつながることがわかった。
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