研究課題/領域番号 |
24580361
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
糸長 浩司 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (10184706)
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研究分担者 |
藤沢 直樹 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (10409071)
近藤 昭彦 千葉大学, 環境リモートセンシング研究セン, 教授 (30201495)
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キーワード | 福島県飯舘村 / 福島県川俣町山木屋 / 住宅内被曝 / 疎開キャンプ / 移住先移住意識 / 帰還意識 / 生活再建 / 二地域居住 |
研究概要 |
飯舘村内の住宅内での放射線量調査を村民の協力を得て、飯舘村内の5件で実施した。住宅内は放射線管理区域の基準である0.6μ㏜/hを超える箇所がほとんどであり、帰還困難区域の長泥地区では、3μ㏜/hを超える箇所もあった。床<床上1m<天井の順で放射線量は高くなり、二階が一階より高い傾向にあり、また、住宅周囲の壁に近い箇所が高い。この原因は、住宅敷地及び周囲からのガンマー線の影響と推察できる。住宅内での放射性物質の付着量について、天井裏、テレビの上等で簡易測定法により、ゲルマニウム半導体で表面汚染状況を測定したが、放射線管理区域からの持ち出し規制基準の4万Bq/ m2の1/100程度であり、住宅内の放射線外部被曝のリスクは低いと考えられる。また、別の建物でロスナイ換気扇の吸気フィルターの放射性物質の付着状況を検査した。十万Bq/ m2を超える値が出た。これは、当時の空気に相当量の放射性物質が浮遊していたが、換気扇のフィルターで除去されたものである。一時帰宅、長期滞在に関しての被曝量を低減するための住まい方、外部除染、壁・屋根等の放射線防御被服の必要性を提言した。また、被災住民達の保養キャンプの実施、仮設住宅での生活再建WSから、家族やコミュニティ崩壊への不安、避難先での就労と生活再建・住宅取得の必要性を指摘し、かつ、避難先での市街化調整区域での農村地域活性化を複合させた新定住環境計画と事業展開の必要性を提案した。川俣町山木屋地区の里山流域での地形、植生分布に対応した不均質な空間線量率の分布が明確となり、山地斜面の落葉層、土壌層の放射能濃度の分布の測定を行った。放射性セシウムはほとんどが落葉層(L層、F層)に存在し、土壌層(A層)への浸透は限定的であること等が明らかにし、地域の適正な伝統的治山・緑化技術での斜面林の放射能対策手法を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
原発事故後の飯舘村内での住宅内放射線量の科学的調査は本調査が唯一であり、貴重なデータとして社会に発信できたと同時に、今後の住宅内での被曝リスク低減策と住宅改修手法についての知見を獲得できた。チェルノブイリ事故後での住宅内汚染実態は明確でない中、本調査で得た知見は、世界的にも貴重なものとして評価できる。これらの成果は新聞等でも取り上げられ社会貢献の高い研究成果であった。また、本研究に関連して放射能関係研究者と共同して実施した飯舘村民の初期被曝の実態も解明し公開することでより社会的貢献ができた。避難住民の生活再建、コミュニティ再建に関する課題の明確化も住民との協力関係、信頼関係でより具体的な課題が明確になった。この成果は,放射能被害を受けた被災コミュニティが抱える帰村意識の違いによる紐帯の崩壊や世帯分離などによるコミュニティ・家族間の関係性の崩壊への対処法の一回答としての「二地域居住」の可能性を示唆している。 放射能汚染された山村の復興を達成するための基本的考え方として「里山流域」単位の対策を提言し、流域単位の放射能モニタリング手法の確立、その結果に基づく放射能対策の提案を行った。また、対策を進め、復興を実現するためには“故郷の誇り”を維持・強化し、外部に向かって発信する必要がある。そのため過去の空間情報の処理技術(モザイク、オルソ化)を確立させた。 今後の被災住民の生活再建、コミュニティ再建を考える上で、住民とのwsで今後の二地域居住提案の意義が避難民にも認識されるようになってきており、復興計画・事業の見直しに貢献できる研究としての社会意義も高く、更に一般市民にこれらの実態を発信することで原発事故を風化させない社会的意義を高いものであった。更に、避難先での都市・農村計画制度と事業展開の必要性を学術分野、復興計画分野にも発信でき、新しい復興展開に寄与した。
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今後の研究の推進方策 |
飯舘村内の住宅内外での放射線量の推移調査、放射性物質の付着調査、土壌調査を継続実施すると同時に、除染された宅地での土壌中の放射性物質調査及び空中線量調査を実施し、宅地内除染効果を検証する。更に、比較的放射線量の高い地区での一時帰宅、帰還が進められようといる中で、住宅内居住による放射線被曝のリスクを低減するための、建築的な住宅改善、放射線防御壁・ブロック(硫酸バリウム使用)の開発等を進める。その上で、行政が進めようとしている、帰還政策、帰宅政策の早急性に対する課題、問題点を指摘し、その施策とは異なる、村外、現在の避難先での村民達の安定した生活再建の手法、事業展開を提案するための基礎的研究を、飯舘村民へのアンケート、WSを、飯舘村民達の協力の下に実施する。具体的には、現在の移住先である、福島市、伊達市における市街化調整区域への部分的集団移住、共同菜園形成の具体化を図るための支援研究を実施していく。避難先での共同菜園づくりによるコミュニティ再建の意義に関しては、農地の放射性物質の付着及び植物への移行率等も合わせて調査に、安心して共同菜園づくりのできる科学的根拠も提示しながら、共同菜園の意義を明確にしていく。 川俣町山木屋での支援研究では、一部、帰還意向の強い住民達への支援活動の一環として、里山流域における放射能汚染分布図の作成の精緻化および他流域・多流域への適用を進める。放射能対策案のフィージビリティーに対する山木屋地区との協働による検討し、集落地理学(山村地理学)的研究の推進により、“山村世界”のアピールと地域に対する誇りの維持・強化の手法を開発する。 これら、飯舘村、川俣町山木屋での二年間にわたる研究成果を関係団体と協力して広く社会に訴える。また、また、3年間の成果を一冊の報告書としてまとめ、さらに、関係者、村民有志と協力してシンポジウム等で発信していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定での旅費出張に関しては、大学での研究費等を活用することで、残金が生じた。 次年度においては、最終年度でもあり、まとめのための謝金の充実化、まとめの冊子印刷代として使用する計画である。 ①謝金として 90000円、②印刷代として、104974円
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