研究課題/領域番号 |
24580376
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
植山 秀紀 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 近畿中国四国農業研究センター傾斜地園芸研究領域, 主任研究員 (50370630)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 農業気象 / 蒸発散 |
研究概要 |
本研究は、式(1)のFAO-56法を応用して、カンキツ園地からの蒸発散量を精密に推定するための新手法を開発するものである。本年度は、大気環境が同じ条件に保たれた人工気象室内(気温28℃、相対湿度50%)において、カンキツ樹(3年生宮川早生;幹径17mm)の樹液流を測定し、水分ストレスと樹液流との関係を解析するとともに、園地の蒸発散量推定に必要な、Ks値の扱いについて検討した。このとき、樹液流は樹液流計(DYNAMAX, FLOW32-1K)で測定し、水分ストレスはプレッシャーチャンバー法で測定した最大水ポテンシャル(ψmax)を指標とした。 (1)ET = (Kcb×Ks +Ke)×ETo ここで、ET:蒸発散量(mm/day)、Kcb:作物毎に決定される係数、Ks:水ストレスにより決定される係数、Ke:土壌からの蒸発量により決定される係数、ETo:ペンマンモンティース法で求める基準蒸発散量 樹液流は、ψmaxが-0.8以下になるまでほとんど変化せず、それ以上に土壌の乾燥程度が進むと急激に低下する。ψmax-0.8という値は、果実の糖蓄積が促進される目安とされる値であり、PF3以上の極度の土壌乾燥状態を示す値である。この試験結果から、カンキツ園地の蒸発散量推定モデルにおける水分ストレスに関する係数Ksは、水の供給を止めることで、人為的に乾燥状態を作り出す糖蓄積期を含め、一定の値として扱える事が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、Ks値だけでなくKcb値についても検討する予定であったが、機材の納入時期および人工気象室の整備の遅れ等から、Ks値の試験しか実施できなった。当初は、Kcbについても人工気象室での予備試験が必要と考えていたが、24年度の文献調査等からKcb値の決定に必要な気象要素は、蒸散要求度に関する日射及び大気飽差に絞れると推察されたこと、そして、24年度の試験でKs値を一定として扱えることが示唆されたことから、当初計画通り25年度は、自然条件下での試験により、Kcbの推定値を気象条件により決定する手法の開発に取り組む予定である。このことから、当初計画は一部修正されたが、実質的な計画の遅れはないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、人工気象室での試験を継続し、Ksの具体的値を決定する。さらに屋外試験により、Kcb値およびKe値の推定手法を開発するため、以下の試験を実施する。 Kcb値は、FAOのガイドラインのように、一定条件で算出したKcbの基準値を風速・湿度・樹高から補正して求めるのではなく、気温・日射・飽差・LAIを変数とするモデル式で推定する手法を開発する。具体的には、屋外の大型ポットに移植された樹において、樹液流および気象値の観測を行い、LAI・日射・飽差・気温の各項とKcbとの関係を検討し、Kcb値の推定モデル(重回帰を想定)を開発する。この時、樹液流量と蒸散量をほぼ等しくするため、開花後の花は全て落とし、果実は作らない。 Keは、高品質果実生産のため推奨されているマルチ被覆(次世代生産技術として注目されているマルドリ方式で多用されるタイベックを使用)と裸地における数値を決定する。裸地の場合は、土壌の差による影響が大きいが、全ての土壌を対象に試験することは困難なため、カンキツの代表的な土壌において、PF値に基づき分類されたグループ毎の値を決定する。具体的には、大型ポットにおいて、マルチ被覆した土壌と被覆しない土壌に、土壌水分プロファイラと熱流板を設置する。そして、土壌水分減少量を蒸発量と仮定し、マルチにおけるKe値を決定する。 基準蒸発散量は、園地における予測が困難な風速を利用しない、Priestly-Taylor法で決定する。このときの地中伝熱量の概算値は、熱流板の測定値から決定する。また、植被率の違いについては、木材で人工的に植被率20%、50%、70%の状態にした時の観測結果から、取り扱い方法を決定する。さらに、観測期間中は、気温・湿度・風向・風速の他、4成分の長波・短波の測定を行い、気象データから計算された正味放射量の妥当性についても検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の予算は、気象・土壌水分・樹液流の観測に必要な消耗品及び機材の購入に充てる。また、26年度に実施する現地実証に必要な機材を整備する。さらに、学会発表及び情報収集ためのシンポジウム参加等のための旅費に使用する予定である。なお、次年度使用額23,279円は、研究費を効率的に使用して発生した残額であり、次年度の研究費と合わせて、研究計画遂行のために使用する。
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