高品質果実の生産に必要な水分ストレス管理を効率的に実施するための重要な情報となる、園地からの蒸発散量を精密に推定する手法を開発した。 昨年度までの試験において、カンキツからの蒸散は、かなり土壌が乾燥した場合(PF2.0以上)まで変化しないことを明らかにし、糖度上昇のために強度の水分ストレスを与える時期までは、樹からの蒸散を推定する上で、土壌水分は無視できると考えられた。また、圃場試験により、FAOのガイドラインに示される作物係数を検証した結果、気象条件に応じて係数を大きく変える必要がないことが示唆された。 本年度は、これまでの研究成果を応用して、実際の果樹園地からの蒸発散量の推定を試みた。基準蒸発散量の推定においては、ペンマンモンティース(PM)法が一般的で精度も高いとされている。しかし、現地の風速データを取得するための計算には膨大な計算機資源が必要な事から困難であった。そこで、風速を必要としないプライスリーテイラー(PT)法を適用した。PT法を適用した場合の精度低下が懸念されたが、湿潤大気では大きな差がないとされていること、またカリフォルニアのカンキツ園地において、PT法による計算値は、PM法と遜色がないという研究論文があること等から、西日本においては適用可能と判断した。また、数値気象モデル(TERC-RAMS)の放射冷却強度指標から推定された最高・最低気温、及びアメダス観測値から推定された直達・散乱日射量時別値による日積算日射量を用いて、PT法による基準蒸発散量を計算する手法を確立した。そして、愛媛県の大三島を対象に、20年間(1995~2014)における10m解像度の日蒸発散量データを作成した。 本研究による蒸発散量推定手法を装備した圃場管理システムについて、オランダのアムステルダムで開催された国際会議で発表した。
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