研究課題
基盤研究(C)
我々は、これまでの研究から、高圧処理による筋肉内コラーゲン線維ならびに結合組織の脆弱化には筋肉内デコリン自体の分解もしくはデコリンのコラーゲンからの解離が関与することを予想し、まずは、本研究においてデコリン分子の構造ならびに安定性に及ぼす高圧処理の影響を明らかにすることを目的とした。以上の目的から、平成24年度では以下の研究を実施した。まず、Parthasarathyら(1991)およびNishiumiら(1996)の方法を参考にして、ウシ筋肉からデコリンを単離・精製することを試みた。筋肉中のデコリン量は極めて少ないため、筋肉からデコリンを単離・精製する技術は非常に難しく、各ステップにおけるデコリンの精製度と収率を電気泳動などで確認しながら、現在,実験条件の最適化を行い、来年度には単離・精製技術を確立する予定である。一方、単離・精製実験と平行し、ウシ関節軟骨由来の市販デコリンを用い、高圧処理によるデコリン分子の挙動解析を試みた。すなわち、高圧処理を施した後に 電気泳動によりデコリン分子の分解を解析したところ、デコリン分子,グリコサミノグリカン鎖およびコアタンパク質のいずれも600 MPaまでの高圧処理では分解しないことが確かめられた。また、デコリン分子中のチロシン残基をプローブとした高圧下蛍光測定により、約200~300 MPaの高圧処理でデコリン分子の三次構造が変化することが推定され、さらに、8-anilino-1-naphthalene sulfonic acidを用いた表面疎水性測定からも、400 MPa以上の圧力によってデコリン分子の三次構造が崩れ、変性することが示唆された。一方、CDスペクトル解析により、圧力の上昇に伴ってデコリン分子のβシート含量がやや低下した程度で、高圧処理に伴うデコリン分子の二次構造の変化は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
現在のところ、研究目的に基づいて研究は進められているが、当初の平成24年度研究実施計画よりはやや遅れている。具体的には、平成24年度中に筋肉内からデコリンを単離して特徴付けする予定であったが、デコリンの単離・精製技術の改良に手間取り、デコリンの単離・精製技術の確立と特徴付けについては、平成25年度に実施する。一方、ウシ関節軟骨由来の市販デコリンを用いた高圧処理によるデコリン分子の挙動解析は当初予定以上に進行し、予定していた三次構造(高圧下蛍光測定)の解析に加え、平成25年度での実施予定のデコリン分子の表面疎水性の測定および二次構造解析を行うことができ、高圧処理に伴う軟骨デコリンの分子構造変化や変性を総合的に捉えることができた。したがって、進捗が遅れている筋肉内からのデコリンの単離・特徴付け実験が平成25年度で順調に進めば、平成26年度までの当研究の目的が予定通りに達成できるものと考える。
上でも述べたが、当年度(平成24年度)では、デコリンの単離・精製技術の改良に手間取り、本来予定してしたデコリンの単離・精製技術の確立と特徴付けについては、次年度(平成25年度)に実施する。これは、私自身が多忙の嵐に巻き込まれて予定していたほどにはエフォートを割けなかったことと、大学院生にもう一方の実験(高圧処理によるデコリン分子の挙動解析) を中心に補助してもらったためと考える。したがって、次年度は、まず筋肉内デコリンの単離・特徴付け実験を重点に研究を推進する。そのために当年度から次年度に繰り越した研究費を、主に、単離・特徴付け実験に関する物品の購入と実験補助経費(謝金)に重点的に配分し、今後の研究の推進を図りたい。具体的には、平成25年度では、(1)筋肉内デコリンの単離・精製技術の確立。および、その後に、(2)精製筋肉内デコリンの特徴付け。すなわち、電気泳動法によりデコリン分子,コアタンパク質,グリコサミノグリカン鎖のチェック。ゲル濾過クロマトグラフィー法によるデコリン分子の分子量測定。セルロースアセテート膜電気泳動法によるグリコサミノグリカン鎖の分類。プロテインシークエンサーを用いたN末端アミノ酸配列決定により同定する。
上記の方策を踏まえ、次年度(平成25年度)の研究費(繰越額を加えて約210万円:間接経費は除く)については、物品費125万円、旅費20万円、人件費・謝金45万円、その他20万円を計画している。
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化学工学
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High Pressure Research
巻: - ページ: -
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食肉の科学
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