研究課題/領域番号 |
24580394
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
河原 聡 宮崎大学, 農学部, 准教授 (30284821)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | トランス脂肪酸 / 亜硝酸塩 / 加熱 / pH / 食肉加工 / 食肉衛生 |
研究概要 |
豚肉への亜硝酸塩添加によるトランス脂肪酸の生成条件を調査し,塩漬加工時の重要管理点を明らかにするため,以下の検討を行った。 豚ロース肉に2%食塩および100~1000ppmの亜硝酸ナトリウムを添加し,冷蔵下で塩漬を行った。塩漬後の生肉から総脂質を抽出し,メチル化,固相抽出カラムを用いたクリーンアップを行った後,本年度購入したガスクロマトグラフを用いてトランス脂肪酸の定量分析を行った。その結果,亜硝酸塩添加量が1000ppm以上になるとエライジン酸(C18:1n-9t)の含量が増加することが確認された。 次に,上記と同条件で塩漬を行った肉および未塩漬肉を,食品衛生法で規定された加熱条件(中心温度63℃,30分間以上の加熱)で蒸気加熱殺菌し,トランス脂肪酸の定量分析を行った。亜硝酸塩を含まない未塩漬肉では,トランス脂肪酸の増加傾向は認められたが,統計学的に有意ではなかった。一方,加熱塩漬肉については,亜硝酸塩濃度500ppm以上の条件でエライジン酸含量が数倍増加した。また,原料肉中には検出されなかったパルミトエライジン酸(C16:1n-7t)やリノレライジン酸(C18:2n-6t)も定量可能なレベルで検出された。このことから,比較的少量の亜硝酸塩が添加された条件下では,加熱によりトランス脂肪酸が生成することが確認された。 次いで,pHを4.5~5.5に調整した豚肉を,200ppmの亜硝酸ナトリウム共存下で塩漬し,加熱殺菌した。その後,トランス脂肪酸含量を測定したところ,pH5.0以下の条件でトランス脂肪酸の生成量が数十倍まで増加することが確認された。 以上から,加熱食肉製品においてトランス脂肪酸は亜硝酸塩濃度依存的に生成し,肉のpHに依存して生成速度が変化することが確認された。このような検討はこれまで行われておらず,本研究成果は食肉衛生の観点から重要な知見であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では,亜硝酸塩濃度および加熱条件に関する検討を重点的に行うこととしていた。本年度は,亜硝酸塩濃度について検討がおおむね終了した。一方,加熱条件の影響に関しては,食品衛生法に準じた最低限の加熱殺菌条件について慎重に検討する必要が生じたため,他の条件を十分に検討できなかった。しかし,「トランス脂肪酸生成に関する重要管理点を知る」という目的においては,法で義務付けられた加熱殺菌条件においてもトランス脂肪酸が生成し得るという事実が確認されたことから,一定の成果は得られたと判断している。 また,研究の過程でトランス脂肪酸の生成に食肉pHが影響を及ぼしていることを予測させるデータが得られた。この点については当初計画にはなかったが,本研究において重要な知見となることが予測されたことから,詳細な検討を加えることにした。それにより,食肉pHが亜硝酸塩によるトランス脂肪酸生成に相乗的な影響を与えていることを示唆する結果が得られたことは,大きな成果であったと考えている。 以上のことから,研究目的の達成度について,上の通りの評価を下した次第である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の計画において,十分な検討が行えなかった加熱条件については,今後,検討を行う。その際には,加熱温度および加熱時間,特に製造基準で定められた比較的低温での長時間加熱の影響について,詳細に検討する予定である。また,例えば発酵食肉製品のような,意図的にpHを低下させる製品について,その安全性を担保できる加工条件を見出すことは,国民の利益に繋がるものである。それゆえ,肉のpHと亜硝酸塩濃度との関連性については,統計学的な解析を組み合わせて,さらに詳細な検討を実施することとしている。これらの知見を集約し,トランス脂肪酸生成の制御するための重要管理点を明確にしたい。 一方,亜硝酸塩によるトランス脂肪酸の生成機構を知ることは,本研究課題の目的を達成するための根本的な制御法の開発に必須である。この点については,本年度から予備的な検討を実施しているが,複数の生体成分が渾然一体となっている食肉中での評価は大きな困難を伴うことが予想される。今後もESR(電子スピン共鳴)やFT-IR(フーリエ干渉赤外分光光度計)あるいはイオンクロマトグラフなどの精密分析機器を用いた予備的検討を継続し,知見の蓄積を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も引き続き食肉加工のモデル実験を実施するため,研究費の多くは原材料費および食肉分析に係る試薬およびカラム類などの消耗品の購入に使用する。また,成果を公表するための学会参加旅費,および現在執筆中の投稿論文の完成度を高めるための英文校閲費や投稿費用にも研究費を充てる予定である。一方,備品等の購入は計画していない。
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