研究課題/領域番号 |
24580397
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
向井 孝夫 北里大学, 獣医学部, 教授 (20229917)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 乳酸菌 / プロバイオティクス / 付着 / ムチン |
研究概要 |
哺乳類の消化管は、ムチンと呼ばれる粘性の糖タンパク質で覆われている。ムチンは、分子量に対して50~80%の糖を含み、シアル酸や硫酸基など多数の糖が付加されることで、その多様性を生み出している。実験的に抽出されたムチンには多くの夾雑物が含まれており、ムチン糖鎖を介した乳酸菌の付着性を評価に影響を及ぼすことが推察されたが、この点に関して検討された例はない。一方、我々はこれまで硫酸化ムチン糖鎖と類似の糖鎖構造をもつスルファチド(SO3-3Galβ1Cer)に付着性を示すLactobacillus reuteri JCM1081とそのアドヘシンとして翻訳伸長因子(EF-Tu)を見出してきた。そこで、本研究では、ムチンの純度の違いが付着性に及ぼす影響を検討するとともに、EF-Tuの硫酸化ムチン糖鎖に対する結合性の評価を行うことを目的とした。 ムチンの精製過程を検討した結果、CsCl密度勾配超遠心分離処理の有無が、付着性の評価に影響を及ぼすことが示された。L. reuteri JCM1081由来EF-Tuの硫酸化ムチン糖鎖結合性の評価を行った結果、1)スルファターゼ処理によりHis6-EF-Tuのムチンへの結合性は有意に低下したが(p<0.05)、シアリダーゼ処理では変化は見られなかったこと、2)酸性オリゴ糖および脱シアル酸酸性オリゴ糖の添加によりHis6-EF-Tuの結合は濃度依存的に低下したが、中性オリゴ糖の添加では結合性に変化は見られなかったこと、3)抗硫酸化血液型糖鎖抗体PGM34とHis6-EF-Tuのブタ胃粘膜への反応部位が類似していたことが明らかにされた。以上から、EF-Tuがシアル酸に結合せず、硫酸化ムチン糖鎖に対して特異な結合活性を示すことが明らかにされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的1の達成度 本研究では、第一に、純度の高いムチンを得 る方法を開発し、真にムチンへ付着する乳酸菌を評価する方法を確立することを目的とした。市販ブタ胃由来ムチンを用いて、精製前と精製後ムチンへの乳酸菌の付着性、糖含量などを解析した。ゲルろ過、密度勾配遠心分離処理を組み合わせ精製されたムチンと精製各段階のムチンへの付着性を解析した結果、精製前と精製後で付着性が異なり、精製ムチンを用いることで正確な付着性を評価できることが明らかになった。このように、目的は完全に達成することができた。 目的2の達成度 目的の第二は、Ef-tuの精製ムチンへの付着性とその結合機構に硫酸化糖鎖が関与しているか否かを検討することである。また、他の菌株のEf-tuでもムチンへの結合性が硫酸化糖鎖を介しているか否かを明らかにするとともに、ヒト腸管由来株化細胞を用いてEf-tu が付着性に関与しているか否かを明らかにすることであった。 本研究では、L.reuteriが産生するEf-tuのムチンへの付着性を明らかにすることができたこと、また、抗Ef-tu抗体、硫酸化血液型抗原に対するモノクローナル抗体、ムチンオリゴ糖によってEf-tuのムチンへの結合性が阻害されたので、Ef-tuはムチンの硫酸化糖鎖部位、すなわちスルホムチン糖鎖に結合することが明らかにできた。さらに、ヒト腸管由来株化細胞への付着性を検討することはできなかったが、ブタ腸管切片を用いた免疫組織化学的手法においてもEf-Tuはスルホムチン糖鎖へ結合することが示された。他方、L.gasseriのEf-tuにおいてもムチンへの付着性が認められた。以上のように、当初、Ef-tuのヒト腸管由来株化細胞への付着性を解析する予定であったが、切片への付着性を解析することで代替した点を除き、当初の目的はほぼ達成された。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までにEf-tu が硫酸化糖鎖に結合する付着因子であることを明らかにできた。そもそもEf-tuは細胞質内タンパク質であり、その構造中には既知のシグナル配列がないにもかかわらず、細胞表層に存在することを見出している。そこで平成25年度はEf-tuが細胞外に分泌されるメカニズムを明らかにすることに着手する。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度、繰越額については、Ef-tuのムチン付着性を明らかにする目的で上半期中に執行する。平成25年度の交付額に関しては本年度の研究目的を達成するために、適切に執行する。
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