研究課題/領域番号 |
24580407
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
保地 眞一 信州大学, 繊維学部, 教授 (10283243)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | フリーズドライ |
研究概要 |
ウシ精子凍結乾燥行程の最適化を目指した。溶液の凍結濃縮相はある一定の温度 (最大凍結濃縮相ガラス転移温度=Tg') でガラス化状態に変化する。このTg'よりも高い温度で乾燥を行うと、凍結乾燥後に得られる多孔質の構造物(凍結乾燥ケーキ)に「コラプス」と呼ばれる外見的な構造変化を生じやすい。予備凍結後のTg'ならびに乾燥時のコラプス形成に着目し、復水した凍結乾燥ウシ精子の正常性保持との関係を調べた。凍結乾燥バッファは、10mM Tris-HCl、50mM EGTA、0.5M トレハロースからなる。示差走査熱量計を用いて測定した凍結乾燥バッファのTg'は、-28.5℃だった。凍結融解ウシ精液を同バッファに懸濁し、予備凍結を行った後に-30℃または0℃に制御した棚の上で6時間の乾燥処理を行った。乾燥温度が-30℃のケーキでは完全な形状を保っていた一方、乾燥温度が0℃のケーキではコラプスが形成されていた。復水精子の顕微授精 (Intracytoplasmic sperm injection=ICSI)後、卵子活性化補填処理を施し、8日間の体外発生培養によって胚盤胞の獲得を目指した。0℃で乾燥した精子は注入ピペット内壁に付着しやすく、卵細胞質内への精子の注入操作が困難になった。0℃で乾燥した精子のICSI後における胚盤胞発生率(0%)は-30℃で乾燥した場合の値(3.1%)よりも有意に低下した。以上、凍結乾燥ケーキのコラプス形成は復水ウシ精子の正常性を低下させる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予備凍結後のTg'ならびに乾燥時のコラプス形成に着目し、復水した凍結乾燥ウシ精子の正常性保持との関係を調べた結果、凍結乾燥ケーキのコラプス形成は復水ウシ精子の正常性を低下させることがわかった。乾燥温度以外にも、コラプス発生に影響する要因の解析も進んでおり、学会発表は済ませた。論文投稿の準備も進んでいる。よって、「ウシ精子の凍結乾燥」の方はおおむね順調に進展しているものと自己評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
「ウシ体細胞凍結乾燥行程の最適化」を平成25年度の年度計画においてもっとも重要な位置づけとしている。mRNAを介した継代培養細胞の細胞膜上に対するトレハローストランスポーターならびにアクアポリン1の挿入、ならびに凍結乾燥・復水後のゲノムDNAの損傷をアルカリコメットアッセイによって定量化することを計画している。mRNAの導入にはヘモリジンを用いる。変異型H5αヘモリジンは、細胞膜に微小穴を形成させ、亜鉛の有無によって同ゲートの開閉を制御できる、ユニークなタンパク質である。平成24年度、その作製をほぼ終えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗費の大部分は、卵子供給のもととなるウシ卵巣(250円/個)、ならびに凍結精液(1500円/ストロー)の購入費用である。またDSCの稼働時に必要となる液体窒素の使用量も月200Kg(180円/Kg)に達する。すなわち、科研費補助金はほぼランニングコストだけで枯渇する。
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