研究課題/領域番号 |
24580410
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
磯部 直樹 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (80284230)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 乳房炎 / 自然免疫 / 抗菌ペプチド / 性ステロイドホルモン |
研究概要 |
乳房炎による乳価の低下、家畜の治療費および淘汰によって被る損害は莫大なので、これを予防・治療するためにも乳腺における免疫機能を理解することが重要となる。性ステロイドホルモンが各種組織の免疫機能を変化させている報告があるが乳腺における影響は不明である。そこで、本研究では性ステロイドホルモンが乳腺免疫機能に及ぼす影響を解明し、これの障害が乳房炎を誘導するという新たな乳房炎発症機序を追及することを目的とした。本年度はまず、抗菌ペプチドの一種であるS100A7に対する抗体を作成して、酵素免疫測定法による乳中濃度の測定法を確立した。次に、血中エストロジェン(E)あるいはプロゲステロン(P)濃度を高値に維持した高E区および高P区のヤギの乳腺にグラム陰性細菌成分であるリポ多糖 (LPS)を注入し、経時的に乳汁を採取して、抗菌ペプチド濃度を測定した。乳中体細胞数(SCC)は両区においてLPS投与後数時間後から顕著に増加したが、高E区の方が高値を長期間維持し続けた。高E区のSCCはLPS投与1日から7日後まで高P区に比べて有意に高かった。乳中ラクトペルオキシダーゼ(LPO)活性およびラクトフェリン(LF)濃度は高E区のみでLPS投与後に投与前に比べて有意に高くなり、この値は高P区に比べても有意に高かった。乳中ディフェンシン(LAP)およびS100A7濃度は両区ともLPS投与後増加する傾向が認められたが、有意ではなかった。以上の結果から、血中E濃度が高い時にLPSを投与すると、自然免疫反応が過剰に反応することが示唆された。したがって、発情期における大腸菌等のグラム陰性細菌による感染では自然免疫がより活発に機能すると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では性ステロイドホルモンが乳腺免疫機能に及ぼす影響を解明し、これの障害が乳房炎を誘導するという新たな乳房炎発症機序を追及することを目的とした。当初乳牛を用いる予定であったが、相当数の乳牛確保が困難であったため、ヤギを用いた試験に切り替えた。ヤギは乳牛と類似した乳腺を有しており、乳牛のモデル動物として利用されている。この措置はあらかじめ計画書に記述した通りである。本年度は血中エストロジェン(E)あるいはプロジェステロン(P)濃度を高値に維持した高E区およびP区のヤギ乳腺にグラム陰性細菌成分であるリポ多糖 (LPS)を注入し、経時的に乳汁を採取して、抗菌ペプチド濃度を測定した。交付申請書ではLPSだけでなくグラム陽性細菌成分を用いた投与試験も実施する予定であったが、予想外にLPS試験遂行に時間がかかり、予定通りの内容を実施するにいたらなかった。試験が遅延した理由は、ヤギの頭数確保が困難であったことおよび1回の試験に要する時間が長くさらに試験後次回の試験までの期間をある程度設けざるを得なかったからである。
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今後の研究の推進方策 |
まず、乳中cathelicidin2測定のための酵素免疫測定法を確立する。また、本年度実施できなかったグラム陽性細菌成分投与試験を実施する。LPSの時と同様に高E区および高P区を設け、それぞれの乳房にStreptococcus aureus (SA)の死菌を投与して、経時的に乳を採取する。そして、乳中の抗菌ペプチド濃度を測定する。さらに次年度実施予定であった乳腺上皮細胞の牛乳からの採取法、体外培養による乳腺上皮細胞の増殖法を確立し、その細胞をLPSやSA死菌で刺激し、経時的に抗菌ペプチドのmRNA発現および培地濃度を測定する。また、これらのLPSおよびSA死菌の刺激に及ぼす性ステロイドホルモンの影響を調べるために、培地にEあるいはPを添加して、同様の試験を実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度予定していた、グラム陽性菌を投与して抗菌ペプチドの産生を調べる試験が実施できなかったため、これに要する費用を次年度に繰越す。具体的にはグラム陽性菌死菌やホルモン剤、飼料代、抗菌ペプチド測定試薬代などに使用する予定である。また、次年度ではこれらの試験に加えて当初予定していた乳腺上皮細胞の体外培養を実施する予定であり、培地やPCR試薬、抗菌ペプチド測定試薬等に使用する。
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