研究課題/領域番号 |
24580410
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
磯部 直樹 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (80284230)
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キーワード | 乳房炎 / 自然免疫 / 抗菌ペプチド / 性ステロイドホルモン |
研究概要 |
乳房炎による乳価の低下、家畜の治療費および淘汰によって被る損害は莫大なので、これを予防・治療するためにも乳腺における免疫機能を理解することが重要となる。性ステロイドホルモンが各種組織の免疫機能を変化させている報告があるが乳腺における影響は不明である。そこで、本研究では性ステロイドホルモンが乳腺免疫機能に及ぼす影響を解明し、これの障害が乳房炎を誘導するという新たな乳房炎発症機序を追及することを目的とした。本年度はまず、抗菌ペプチドの一種であるCathelicidin-2に対する抗体を作成して、酵素免疫測定法による乳中濃度の測定法を確立した。次に、血中エストロジェン(E)濃度を高くした高E区およびプロジェステロンを高くした高P区のヤギの乳腺にグラム陽性細菌であるStaphylococcus aureus (SA)の死菌を注入し、経時的に乳汁を採取して、抗菌ペプチド濃度を測定した。乳中体細胞数(SCC)は両区においてLPS投与後数時間後から顕著に増加したが、高E区の方が高値を長期間維持し続けた。乳中ディフェンシン(LAP)およびラクトフェリン(LF)濃度は高E区の方が高P区に比べて有意に高くなったが、これらの濃度の増加に伴って乳量は減少した。以上の結果から、血中E濃度が高い時にSAを投与すると、乳量を低下させることにより自然免疫因子の濃度を増加させていることが示唆された。また、乳汁から乳腺上皮細胞(MEC)を単離・培養して、増殖させる方法を確立し、EがMECの自然免疫機能に及ぼす影響を調べたが、サンプル数が少ないため顕著な差は得られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では性ステロイドホルモンが乳腺免疫機能に及ぼす影響を解明し、これの障害が乳房炎を誘導するという新たな乳房炎発症機序を追及することを目的とした。当初乳牛を用いる予定であったが、相当数の乳牛確保が困難であったため、ヤギを用いた試験に切り替えた。ヤギは乳牛と類似した乳腺を有しており、乳牛のモデル動物として利用されている。この措置はあらかじめ計画書に記述した通りである。本年度は血中エストロジェン(E)濃度を高くした高E区およびPを高くした高P区のヤギ乳腺にグラム陽性細菌を注入し、経時的に乳汁を採取して、抗菌ペプチド濃度を測定した。交付申請書では前年度に実施する予定であったが、予定が遅れて本年度に行った。また、乳汁からMECを採取して培養を実施し、細胞の増殖に成功した。しかし、EのMEC自然免疫機能への影響に関するデータは完全には得られていない。その理由として、培養条件や細胞からの全RNAの抽出、PCRなどの条件設定に時間がかかったこと、細胞の増殖に思いのほか時間がかかったことがあげられる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、乳腺上皮細胞の培養方法を確立したので、この方法を用いて、細胞をグラム陰性菌成分であるlipopolysaccharide (LPS)やグラム陽性菌死菌で刺激し、経時的に抗菌ペプチドのmRNA発現および培地濃度を測定する。また、これらのLPSおよびSA死菌の刺激に及ぼす性ステロイドホルモンの影響を調べるために、培地にEあるいはPを添加して、同様の試験を実施する。 また、体内の常在細菌が死ぬことにより放出される細菌成分によって乳房炎が発症する可能性について検証する。LPSを血中に注入し、継時的に乳汁を採取して体細胞数(乳房炎の指標)を調べる。乳汁中の抗菌ペプチドの濃度についても測定する。さらに、注入したLPSが乳腺に到達しているかどうかを確認するために乳腺組織を採取してLPSの免疫染色をする。また、同組織中の白血球の局在を調べて、乳腺で炎症が起きているかどうかの確認を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
乳腺上皮細胞を培養してEの自然免疫機能への影響を調べる実験が完了していない理由として、培養条件や細胞からの全RNAの抽出、PCRなどの条件設定に時間がかかったこと、細胞の増殖に思いのほか時間がかかったことがあげられる。 したがって、次年度では、これらを継続して実施するため、培地やPCR試薬、抗菌ペプチド測定試薬などが必要となる。
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