研究課題/領域番号 |
24580411
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
佐藤 正宏 鹿児島大学, 医用ミニブタ・先端医療開発研究センター, 教授 (30287099)
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研究分担者 |
三好 和睦 鹿児島大学, 農学部, 准教授 (70363611)
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キーワード | 異種移植拒絶関連遺伝子 / ブタ細胞 / α-Galエピトープ / 体細胞核移植 / EndoGalC / CD47 / DAF / トロンボモジュリン |
研究概要 |
ブタからヒトへの異種移植には、超急性移植拒絶(HAR)を招く特定の糖鎖α-Gal epitopeをブタ細胞表面から除く必要がある。しかし、それだけでは足りず、急性、慢性移植拒絶を抑えるための多遺伝子導入クローンブタの開発が求められる。今回、独自に考案した選択用薬剤に依存しない多遺伝子発現細胞の取得法と体細胞核移植法(SCNT)を駆使することにより、上記目標を達成することを目指す。これまで、IB4SAP(毒素結合α-Gal epitope特異的レクチン)を用いて薬剤不在下遺伝子高発現ブタ細胞の単離が可能かどうかを検討し、実際、それが可能であることを報告した(Sato et al., Biology 2, 341-355, 2013)。即ち、まず、α-Gal epitopeを消化するEndoGalCをコードする遺伝子と緑蛍光タンパク(EGFP)をコードするcDNAを同時発現するプラスミドpCEIEndを作成し、これをブタ細胞に遺伝子導入する。導入後4-5日目(導入遺伝子の一部は宿主ゲノムに挿入され、残りは細胞質から消滅)に細胞を回収し、IB4SAPに短時間作用させ、その後、新鮮培地にて10日間ほど培養する。この過程で、α-Gal epitopeを発現する細胞はIB4SAPと結合するため死滅する。その結果、外来性遺伝子であるEndoGalCとEGFPを組み込んだ細胞(いわゆる遺伝子同時高発現細胞)は、α-Gal epitopeを発現せず、IB4SAP処理後も生存することが判った。平成25年度は外来性遺伝子の導入効率が頗る高いとされるトランスポゾン系の一つpiggyBac(PB)を上述の系に絡め、効率性が高く、且つ選択用薬剤に依存しない多遺伝子同時高発現細胞の取得法を考案し、その有効性を検討した。その結果、期待通り、効率良く、多遺伝子同時高発現細胞株取得に成功した(論文投稿中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、PBとEndoGalCを組み合わせることにより、効率的な多遺伝子発現細胞株の取得を狙った。先ず、PB transposase遺伝子とEndoGalC遺伝子を同時に発現できるプラスミドpTransIEndを作成し、これをEGFPなどのマーカーを取り入れたトランスポゾン系ベクターと共にブタ細胞に遺伝子導入する。導入後2日目(まだ、多くのプラスミドが宿主細胞ゲノムに挿入されないまま細胞質に存在)に細胞を回収し、IB4SAPで処理し、その後、通常培地で培養した。生じたコロニーを調べると、EndoGalC遺伝子はなく、α-Galエピトープの発現も回復していた。一方、目的遺伝子であるEGFPも発現していた。また、この系を用いて赤蛍光遺伝子とEGFPの2個のマーカーを一つの細胞に発現させることにも成功した。このことは、この系を用いれば、一回の遺伝子導入処置で多遺伝子高発現細胞の取得が可能であることを示すもの。 現在、異種移植関連遺伝子をトランスポゾン系ベクターに導入し、これら遺伝子をもつベクターとpTransIEndとを共遺伝子導入し、遺伝子導入後2日目で細胞をIB4SAPで処理することにより、「薬剤耐性遺伝子不在下で複数個の異種移植関連遺伝子を高発現するブタ細胞の取得」を試みている。
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今後の研究の推進方策 |
異種移植関連遺伝子としてCD47抗原遺伝子(急性移植拒絶を抑えるタンパクをコード)、DAF遺伝子(急性移植拒絶を抑えるタンパクをコード)、TM遺伝子(慢性移植拒絶を抑えるタンパクをコード)をブタ細胞ゲノムに挿入することを考えており、これら遺伝子を発現するユニットをトランスポゾン系ベクターに導入している。なお、最近開発された次世代型KOシステムであるCRSPR/Cas9系を用いてブタ細胞ゲノム内のα-Galエピトープを作るα-1,3-galactosyltransferase遺伝子を破壊することも可能となっており、実際、我々の手でそれが可能であることを示した(Sato et al., The combinational use of CRISPR/Cas9-based gene editing and targeted toxin technology enables efficient biallelic knockout of the α-1,3-galactosyltransferase gene in porcine embryonic fibroblasts. Xenotransplantation, in press)。従って、従来の計画であった「EndoGalC発現によるブタ細胞表面のα-Galエピトープ発現消失への試み」を止めて、CRSPR/Cas9系でα-1,3-galactosyltransferase遺伝子が破壊されたブタ細胞に上記の異種移植関連遺伝子群を導入するという方向を考えている。 このような遺伝子改変細胞を用いて、最終的にCD47抗原、DAF、TMを同時発現するブタ個体をSCNT経由で作成する。
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