研究課題/領域番号 |
24580412
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
建本 秀樹 琉球大学, 農学部, 教授 (70227114)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アグー精子 / 精漿 / スキムミルク / 耐凍能 / 凍結保存 / 細胞障害 |
研究概要 |
ブタ精子は他の家畜精子に比較して凍結に対する抵抗性(耐凍能)が劣っており,凍結融解後の精子の性状悪化は著しい。しかも,元々,一般経済豚よりも精子性状の劣るアグー精子は,一般経済豚以上に耐凍能が低い。さらに,その耐凍能は精液輸送時に精漿への精子暴露時間が延長されることで著しく低下する。しかし,フィールドでアグー精子を広域かつ有効に活用するには精液の輸送は避けられず,その際における精子の耐凍能と性状性の悪化を防ぐことは重要な課題となっている。そこで本研究課題では,アグー精子の輸送時における精漿による精子耐凍能低下を抑制する精液輸送用懸濁液を検討するために,今年度の研究においては,精液輸送用懸濁液(BTS)へのスキムミルク添加によるアグー凍結精子の融解後の精子性状に対する改善効果の検討した。 その結果,4個体中3個体の0.5%スキムミルク処理区で対照区に比較して正常な細胞膜とミトコンドリアを有する精子率が有意(P<0.05)に増加し,融解3時間後の運動精子率も顕著に改善された(P<0.05)。一方,0.5%スキムミルク処理区で精子運動率の改善が見られた3個体の1.0および2.0%スキムミルク処理区では,0.5%スキムミルク処理区と比べて運動精子率が低下する傾向が見られ,スキムミルクの至適濃度は0.5%であると結論された。さらに,0.5%スキムミルク処理によって融解後の精子性状に改善効果が見られた個体では,対照区に比較して精子性状を示す他のパラメーターの有意(P<0.05)な改善(細胞内カスパーゼ活性の低下,DNA正常性の増加,細胞内ATP含有量増加,精子先体由来のタンパク質分解酵素活性の増加,およびIVFによる精子受精能力の向上)も確認された。 以上の結果から,精液輸送用懸濁液への0.5%スキムミルク添加は輸送時の精漿による精子耐凍能低下作用を抑制することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年,ウシ精子の液状保存において,スキムミルク中のカゼインはウシ精漿内のタンパク質(BSPタンパク質)と結合することで精子細胞膜からのコレステロール流出を抑制し,液状保存時における精子の生存性および運動性の低下を抑制すると云った報告が成され(Bergeron et al., 2007),精漿中の負の要因からの精子保護作用に対しての新たな見解がもたらされた。一方,BSPタンパク質と類似したアミノ酸配列をもつタンパク質であるpB1がブタ精漿内でも確認されている(Calvete et al., 1997; Lusignan et al., 2007)。これらのことから,ブタ精漿に含まれる因子とスキムミルク中のタンパク質との相互作用の可能性が示唆され,スキムミルクによる精子保護作用は凍結処理前のアグー精子に対しても有益であると推察されたが,その件に関する検討は未だ成されていなかった。 そこで本研究では,精液輸送用懸濁液へのスキムミルク添加による凍結融解後の精子性状への影響を調べた結果,精液輸送用懸濁液へのスキムミルク添加には個体差があるものの,輸送時における精漿による精子耐凍能の低下を防ぐ機序を介して,凍結処理過程におけるカスパーゼの活性化に伴ったアポトーシス様細胞死を抑制し,凍結・融解後の精子性状を改善させることを初めて明らかにした。すなわち,スキムミルクを添加した精液輸送用懸濁液は広域にアグー精子を活用する上で有効であると結論され,精漿による耐凍能低下を防いだ有用なアグー精液輸送用懸濁液を作成すると云った本研究を遂行するに当たって,研究は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の結果から,精液輸送用懸濁液への0.5%スキムミルク添加は輸送時における精子の耐凍能低下作用を抑制し,凍結融解後の精子性状を改善することが明らかとなった。しかし,スキムミルクには精子保護に直接的に関与していない因子も多く含まれているため,より効果的な精液輸送用懸濁液の検討には,スキムミルク中の精子保護に直接的に関与する成分のみを添加する必要がある。 ミルク中に含まれるカゼインは,ウマ,ヤギおよびウシ精子の液状保存液への添加によって精子運動性の維持効果が確認されており,精子保護作用を持つ主要な因子と考えられている。さらに近年,ウシ精子の液状保存時において,精漿中には精子細胞膜からのコレステロール流出を促進させるBSPタンパク質が存在し,BSPタンパク質とカゼインが結合することで,BSPタンパク質の精子細胞膜への付着が阻害され,その結果,精子細胞膜からのコレステロール流出が抑制されると云った報告が成された(Bergeron et al., 2007)。 一般的に,精子細胞膜におけるリン脂質に対するコレステロールの割合は細胞膜の流動性に関与しており,コレステロールは凍結処理時の耐凍能の高さを決定づける因子の一つである(Purdy and Graham, 2004)。一方,BSPタンパク質と類似したアミノ酸配列を持つpB1タンパク質がブタ精漿内においても確認されており(Calvete et al., 1997),精漿中のpB1によって精子細胞膜からのコレステロール流出が促され,精子の耐凍能の低下が引き起こされている可能性が考えられる。 そこで今後の研究では,アグー精液輸送用懸濁液へのカゼインナトリウム添加が凍結融解後の精子性状に及ぼす影響を調べる。なお,精子細胞内コレステロール量と凍結融解後の各種精子性状パラメーターとの関連を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,凍結融解処理後の精子運動性を詳細な観察に必要とされる精子運動解析装置(SMAS, DITECT社製; 約180万円)の購入を計画している。 なお,次年度分の予算だけでは購入できない際には,次年度予算も出来るだけ翌年に繰り越し,二年後での購入を考えている。
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