平成24~26年度の研究を通して,1) 精液輸送用懸濁液へのスキムミルクもしくはカゼイン添加は,輸送時における精漿が引き起こす精子耐凍能低下作用を抑制し,2) 精液輸送時のTrolox処理による凍結処理までの間に受ける酸化ストレスからの保護作用が良好なアグー凍結精子を作製する上において不可欠であるとの成果が得られた。しかし,Troloxで処理した精子であっても凍結融解後のミトコンドリア正常性は50%程の値であり,融解後3時間以上の精子運動性の低下が未だ十分には改善されなかった。 そこで,精巣上体尾部液中に高濃度に含まれミトコンドリアに直接作用し生理的機能を高めミトコンドリアを保護する作用が報告されているL-carnitineに着目し,アグー精液輸送用懸濁液へのL-carnitine処理が凍結融解後の精子性状を改善するか否かについて検討した。 その結果,4個体中3個体で10 mM L-carnitine処理区が無処理区に比較して正常な細胞膜を有する精子率の有意な増加を示した(P<0.05)。しかし,L-carnitineの効果が最も期待されたミトコンドリア正常性に関しては,L-carnitine処理による改善効果が全く認められなかった。同様に,カスパーゼ活性抑制作用と融解1時間後の運動精子率においても10 mM L-carnitine処理による有意な改善効果は検出できなかった。さらに,L-carnitine処理が精液輸送中の活性酸素やラジカルを有意に消去すると云った結果も得られなかった。 以上の結果から,アグー精液輸送用懸濁液へのL-carnitine処理は凍結融解後の精子細胞膜の正常性を高めるものの,その作用が如何なる機序によるものかを今後の研究で明らかにする必要があると思われた。
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