研究課題/領域番号 |
24580413
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
小林 正之 秋田県立大学, 生物資源科学部, 教授 (50211909)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マウス / 初期発生 / 細胞分化 / ホメオタンパク質 / 転写因子 |
研究実績の概要 |
1. 本研究の目的は、マウス胚において発見した新規転写因子EGAM1ホメオタンパク質群(3種)の胚発生における本質的な役割と標的遺伝子の全体像を解明し、胎仔と胚体外組織(胎盤と卵黄嚢)の形成や細胞機能を制御する新たな分子基盤を確立することである。 2. マウス胚の発生におけるEGAM1ホメオタンパク質群の機能を明らかにするために、H25年度に開発したアンチセンスモルフォリノオリゴと遺伝子導入試薬Endo-Porterを使った標的mRNA発現のノックダウンマウス胚を作製する技術を完成した。胚発生において既にその重要性が確立しているOct4遺伝子の発現阻害を引き起こすことに成功し、Oct4ノックアウト胚と同一な表現型が得られることを証明した。現在、当該法によるEGAM1ホメオタンパク質群のノックダウンの実験例数を重ねている。 3. 未分化状態維持におけるEGAM1Nの機能を解明するために、EGAM1N強制発現ES細胞を作出した。当該細胞により、EGAM1Nは未分化状態の安定化をもたらすことを証明した。また、EGAM1NもしくはEGAM1C強制発現と分化誘導方法を工夫することにより、マウスES細胞から胎盤細胞が得られる可能性が示された。 4. EGAM1ホメオタンパク質群と結合する転写因子群を探索するために、GST融合EGAM1ホメオタンパク質と結合する多能性維持転写因子を探索した。その結果、OCT4、NANOG、SOX2をその候補としてあげることができた。 5. DNAマイクロアレイ法とマウスES細胞を用い、EGAM1ホメオタンパク質群により、形態形成に重要なWntファミリー遺伝子群が発現誘導されることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アンチセンスモルフォリノオリゴとEndo-Porter試薬を用いることにより、胚発生におけるEGAM1ホメオタンパク質群の機能を解明しつつある。従来、マウスES細胞から胎盤細胞を得ることはできないと考えられているが、本研究により、EGAM1NもしくはEGAM1Cを強制発現させたES細胞から胎盤細胞が得られる可能性が示された。このことは、従来の認識を変えるかもしれない重要な知見である。また、EGAM1ホメオタンパク質群と胎盤形成との関連を証明することは、最初の細胞分化と当該タンパク質群との関連を強く結びつけるものである。すなわち、本研究の重要な目的の一部を達成したことになる。ただし、Chip-Seq法を用いて当該タンパク質群が結合するプロモーターDNAを網羅的に調べる実験計画は次年度以降に持ち越した。EGAM1およびEGAM1Cタンパク質が核に局在するために重要なアミノ酸残基がC末端側ホメオドメイン内に含まれることを明らかにできたことは大きな進展である。また、EGAM1ホメオタンパク質群とOCT4、NANOG、SOX2が結合する可能性が示されたことは非常に重要である。DNAマイクロアレイ法とマウスES細胞を用いることにより、EGAM1ホメオタンパク質群により、形態形成に重要なWntファミリー遺伝子群が発現誘導されることを明らかにした。所期の目標設定に照らしてみて、これらの進捗状況はおおむね適切である。
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今後の研究の推進方策 |
1.アンチセンス法によるEGAM1ホメオタンパク質群のノックダウン胚の作製と機能解析について、継続して実験例数を増やす。特に、胎盤細胞の形成に関して詳細に検討する。マウス2細胞期胚を胚盤胞まで培養し、形態的に異常が起こる胚の出現頻度を対照と比較する。胚を免疫染色してマーカータンパク質を検出し、内部細胞塊(マーカーはNANOG)・栄養外胚葉(CDX2)・原始内胚葉(GATA6)の形成不全や細胞数の増減が起こるか定量的に調べ、当該タンパク質群の役割を直接的に解明する。 2. Chip-Seq法により、当該タンパク質群が結合するプロモーターDNAを網羅的に同定する。マウス胚と、既に樹立した当該タンパク質群を個別に強制発現させたES細胞から、Chip法を用いて当該タンパク質群結合ゲノムDNA領域(プロモーターDNA)を精製する。次に、小型次世代シークエンサーによりゲノムDNA領域の塩基配列を網羅的に決定後、どの遺伝子のプロモーターDNAに結合したのかデータベースと照合して同定する。 3. EGAM1NもしくはEGAM1Cを強制発現させたES細胞を胎盤幹細胞の樹立培養法により培養し、胎盤細胞が誘導されるか検討する。細胞を免疫染色してマーカータンパク質を検出し、内部細胞塊(マーカーはNANOG)・栄養外胚葉(CDX2)・原始内胚葉(GATA6)の細胞数の増減が起こるか定量的に調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
アンチセンス法によるEGAM1ホメオタンパク質群のノックダウン胚の作製を予定していた。しかし、その方法論に関する原著論文発表に関連して追加実験を行うことになったため、当該タンパク質群のノックダウン胚の作製と表現型の解析について充分に遂行できず、未使用額が生じた。また、Chip-Seq法を用いた実験について、H25年度成果の原著論文発表について追加実験を行ったため着手できず、未使用額が生じた。H26年度において、EGAM1NもしくはEGAM1Cを強制発現させたES細胞から胎盤細胞が得られる可能性が示されたが、H25年度成果の原著論文発表について追加実験をする必要が生じたため充分に遂行できなかったことにより、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
EGAM1ホメオタンパク質群のノックダウン胚の作製とその解析、Chip-Seq法を用いた実験を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。従来、マウスES細胞から胎盤細胞を得ることはできないと考えられている。本研究により、EGAM1NもしくはEGAM1Cを強制発現させたES細胞から胎盤細胞が得られる可能性が示されたことは、従来の認識を変えるかもしれない重要な知見である。そこで、未使用額はその解明のための経費に充てることとしたい。
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