研究課題/領域番号 |
24580417
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
中島 郁世 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産草地研究所畜産物研究領域, 主任研究員 (60355063)
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キーワード | ブタ / 背脂肪厚 / アディポネクチン / 品種間比較 |
研究概要 |
本研究では、背脂肪の厚い梅山豚と薄いランドレースの2品種間でmRNA発現量差の見られたアディポネクチンにアミノ酸置換を伴う多型の存在に着目し、この差異によって生じるアディポネクチンが両者の脂肪蓄積能の違いをもたらしているとの仮説を明らかにする。アディポネクチンの遺伝子変異がアディポネクチン分子多型を生じるかどうか明らかにするためには、まず多様な分子形態を示すアディポネクチンタンパク質検出系を確立する必要がある。しかしながら昨年度、市販の抗アディポネクチン抗体はブタアディポネクチンタンパク質に反応しないことが判明した。 そこで本年度は、ブタアディポネクチンアミノ酸配列に基づく抗原ペプチド3種類を設計してBalb/Cマウスに免疫し、ブタアディポネクチンに応答しかつ分子多型の識別が可能なモノクローナル抗体の作出を試みた。そのうち1種類のペプチドからELISAによるスクリーニングを繰り返した後、ブタアディポネクチンタンパク質に反応するモノクローナル抗体IgMの単離に成功した。しかし得られた抗体の応答性をウェスタンブロットにより確認したところ、ブタアディポネクチンとは異なる分子量のバンドが検出されたことから、本抗体がブタアディポネクチンではない他の夾雑物質に反応している可能性があるとの結論に至った。 一方、抗体がなくてもその分子形態をある程度評価できるよう昨年度構築したプラスミドベクターを用いて、タグ標識したランドレース型および梅山豚型アディポネクチンの強制発現試験を行った。HEK293細胞、ブタ脂肪前駆細胞およびブタ脂肪細胞に導入し、血清入りあるいは無血清培地で培養した後、細胞上清および細胞画分を回収して抗タグ抗体を用いてウェスタンブロットを行った。その結果、何れの条件においてもほぼ同様のバンド様式が観察され、両品種間でアディポネクチンの分子多型は見られない可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、遺伝的に背脂肪の厚い梅山豚と薄いランドレースの2品種間でmRNA発現量差が見られたアディポネクチンの翻訳領域内の多型に注目し、①ブタアディポネクチンタンパク質の分子形態検出系を確立する、②一アミノ酸置換がアディポネクチンタンパク質の分子形態に違いをもたらすかどうか明らかにする、③分子形態の異なるアディポネクチンの脂肪細胞に及ぼす影響を明らかにすることで両品種間の背脂肪厚(脂肪量)の違いを説明することを目的としている。 今年度は、①を達成するために独自に抗ブタアディポネクチンモノクローナル抗体の作出を試みたが失敗に終わった。一方、プラスミドベクターを用いたタグ標識アディポネクチンの強制発現試験により②の目的は概ね達成され、梅山豚とランドレースにおける一アミノ酸置換の違いによるアディポネクチン分子多型は存在しないと推察された。しかし、強制発現系はあくまでin vitroにおける人工産物であり、実際のランドレースや梅山豚の血液中に存在するアディポネクチンの分子形態も同様であるとは必ずしも言えない。従って、①の目的を達成することは本課題において最重要事項であり未だブタアディポネクチン検出抗体を獲得できていないことから、状況は「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
ランドレースと梅山豚間で見られるアディポネクチンの多型がアディポネクチン高分子多量体形成に影響を及ぼすかどうかを明らかにするためには、ブタアディポネクチンに応答するのみならず多様な分子形態の違いを認識する高品質な抗ブタアディポネクチン抗体が必須である。今年度、タグ標識したランドレース型および梅山豚型アディポネクチンを強制発現させウェスタンブロットで分子形態を確認した結果、両品種で高分子多量体形成能に違いは認められなかった。しかしながら、実際の生体が産生し、血液中を循環するアディポネクチンにおいても同様の現象が認められるのかは不明である。そこで、引き続きモノクローナル抗体の作出を遂行し、ランドレースと梅山豚の血液中アディポネクチンの分子形態を解析した上で両品種における分子多型の有無を最終的に判断する。 一方、ランドレースと梅山豚のアディポネクチン遺伝子エキソン1の上流1,810bp内に6カ所の1塩基置換、1カ所のpolyA数の違いおよび1カ所の16bpの欠失による多型が存在することを明らかにしている。アディポネクチン自体のmRNA発現量に品種間差が認められていることから5'UTRの多型に着目し、プロモーター解析等により遺伝子発現に違いをもたらす要因を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度は、ブタアディポネクチンに応答かつ多様な高分子形態を識別可能なモノクローナル抗体を作成した後、ブタの血液中に存在するアディポネクチンタンパク質の様式をウェスタンブロットにより明らかにする予定であったが、モノクローナル抗体の作出に失敗した。従って、有益な抗体を産生するハイブリドーマのクローニング、大量培養、精製といった作業工程に着手できず、また得られた抗体を用いてのその後のタンパク質検出実験に至らなかったため次年度使用額\790,784が派生した。 再度ブタアディポネクチンタンパク質検出に有効なモノクローナル抗体作出のため、繰越額は新規マウスの購入、マウスへの免疫、マウスの採血、抗体価の確認、新規ミエローマの購入、細胞融合によるハイブリドーマの作出、クローニング、ハイブリドーマの培養・維持、ハイブリドーマの大量生産、抗体精製といったマウスモノクローナル抗体の作製に主に使用する予定である。更に作出した抗体を用いて、ウェスタンブロットによるブタ血液中のアディポネクチンタンパク質の分子形態を検出するための試薬購入費用としても用いる。
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