オキナワキノボリトカゲはアガマ科に属するトカゲの仲間で、主に琉球列島に生息しているが、鹿児島県指宿市と宮崎県日南市にも定着が確認されており、国内外来種として近年注目されている。オキナワキノボリトカゲの雄は縄張りをもつことが知られ、この社会性にはいわゆる「フェロモン」と呼ばれる様々な腺の分泌物が関与していると推測される。本研究ではオキナワキノボリトカゲ排泄腔腺の組織構造を調べて、その雌雄差や季節による変化の有無について検討した。 実験には宮崎県日南市で捕獲された雌雄合計15個体(雄10個体、雌5個体)を用いた。ペントバルビタールの腹腔内注射によって安楽殺した後、排泄腔腺を含む組織を切り出し、常法に従ってパラフィン切片を作製した。雄は、7月から8月にかけて捕獲されたものを繁殖期の個体、10月から11月にかけて捕獲されたものを非繁殖期の個体とした。雌は繁殖期に捕獲された個体のみ実験に用いた。 排泄腔腺は雌雄両方に存在したが、雄の排泄腔腺は雌のものに比べて大きな終末部を持っていた。雄の排泄腔腺をHE染色した切片で観察したところ、繁殖期には、非繁殖期のものに比べて背の高い腺細胞が認められた。また、繁殖期と非繁殖期両方の個体で、排泄腔腺を構成する腺細胞には酸好性の細胞質顆粒が認められ、これらの顆粒はPAS染色やアルシアンプルー染色に陽性を示した。一方、雌ではこのような顆粒がほとんど観察されなかった。 排泄腔腺の組織構造には雌雄左があることや、雄で季節による変化が見られたことから、排泄腔腺の機能は繁殖に関わっていることが示唆された。本分泌腺がオキナワキノボリトカゲの繁殖や社会性に与える影響については、さらに詳細な調査が必要である。
|