前年度までの結果から,HBEGFの標的細胞は子宮内膜間質細胞であり,幹細胞が間質,特に子宮小丘に存在している可能性,さらに栄養膜細胞とのJuxtacrine的な相互作用が示唆されたことから,今年度は推定された作用様式の細胞間情報伝達分子機構について,in vitro培養系を用いて検証した。 培養子宮内膜間質細胞の組換え型HBEGF処理(100 ng/mL)によるERK,JNKおよびp38タンパク質のリン酸化について抗リン酸化タンパク質抗体を用いたウエスタンブロット法で調べたところ,JNKおよびp38ではHBEGF処理によるリン酸化は認められなかったが,ERKタンパク質は処理15分後からリン酸化が認められた。一方,ウシ栄養膜細胞系(BT細胞系)ではERKとJNKのリン酸化が認められたが,培養子宮内膜上皮細胞では,いずれのシグナルタンパク質のリン酸化は検出されなかった。活性化が認められたMAPK系カスケードと細胞増殖能および遊走能との関連性を調べるために,各カスケード系の阻害剤を用いて検討した。U0126(ERK阻害剤)処理により,HBEGFによる子宮内膜間質細胞の増殖能および遊走能が完全に抑制された。また,BT細胞系では,U0126,あるいはSP600125(JNK阻害剤)処理により,遊走能が抑制されることが明らかになった。これらの結果は,HBEGFのEGFRを介した生物活性の発現に,MAPKカスケード系が重要な役割を果たしていること,さらに細胞種により,その経路が異なることを示唆するものである。
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