研究実績の概要 |
本年度は昨年に引き続き、鳩の脳内に存在するグルタミン酸作動性神経細胞を形態的に調べ、その神経連絡回路を解明することとした。また末梢神経である聴覚神経節(哺乳類のラセン神経節に相当)と網膜のグルタミン酸作動性神経細胞を調べた。グルタミン酸作動性神経細胞を同定するためには2型小胞性グルタミン酸運搬体(vesicular glutamate transporter 2, vGluT2)を選び、またグルタミン酸受容体細胞を確認するためにイオンチャネル型グルタミン酸受容体(AMPA, kainate, NMDA型)のmRNAを利用したin situ hybridization法により研究を進めた。in situ hybridizationではグルタミン酸作動性神経細胞の細胞体の局在を調べることができるが、投射先は追跡できない。それ故、逆行性トレーサーを利用した神経路標識法も合わせて行った。これに加えて、3型小胞性グルタミン酸運搬体(vGluT3)の解析も同時に行った。 実験の結果、聴覚神経節にvGluT2 mRNAが発現しており、またAMPA型、カイニン酸型とMNDA型の3種類のグルタミン酸受容体も聴覚神経節細胞に発現していた。脳幹の蝸牛核にも同様に3種類の受容体が強く発現していることから、聴覚神経節細胞はグルタミン酸作動性神経細胞の可能性が高い。vGluT3発現神経細胞は脳では縫線核に、網膜ではアマクリン細胞に発現している事を見出した。鳩の聴覚系でのグルタミン酸作動性神経細胞の分布を把握することができた。これらの結果をこれまでに得られたデータと総合すると、鳥類の神経系ではvGluT2とvGluT3が存在していることがわかった。哺乳類ではvGluT1, 2, 3が存在していることから、鳥類ではvGluT2 が哺乳類のvGluT1とvGluT2の役割を果たしていると考えられる。しかしながら海馬-中隔核のグルタミン酸投射路を証明する逆行性トレーサーを利用した神経路標識法では、解析に必要なデータが十分に得られなかった。
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