研究課題
狂犬病ウイルスのP遺伝子mRNAからは、複数のP蛋白質アイソフォーム(P1~3蛋白質)が翻訳される。P3蛋白質がインターフェロン(IFN)抵抗性に関与することが一部報告されているものの、これらのアイソフォームがウイルスの病原性にどのように貢献しているのかについては、不明のままである。本研究では、強毒の西ヶ原株と、その派生株で、P蛋白質機能の異常により弱毒化されたNi-CE株を用いて、自然免疫回避および病原性におけるP蛋白質アイソフォームの重要性を解明する。本年度は、西ヶ原株およびNi-CE株のP2遺伝子領域をG-L遺伝子間領域に挿入した、それぞれNi-CE+NiP2株およびNi-CE+CEP2株の作出に成功した。前年度に作出したNi-CE+NiP1株およびNi-CE+CEP1株(西ヶ原株及びNi-CE株のP1遺伝子領域を挿入)、ならびにNi-CE+NiP3株およびNi-CE+CEP3株(P3遺伝子領域を挿入)と一緒に、これらのウイルスの病原性を検証した。10000 FFUの各ウイルスを6週齢マウスに脳内接種した結果、Ni-CE+NiP1株、Ni-CE+NiP2株及びNi-CE+NiP3株は、それぞれ60%、20%および80%のマウスに致死的な感染を引き起こした。一方、Ni-CE+CEP1株、Ni-CE+CEP2株及びNi-CE+CEP3株は、それぞれ20%、0%および0%のマウスを死亡させた。以上より、すべてのP蛋白質アイソフォームの複数が病原性に関与するものの、特に、P1及びP3蛋白質が病原性に重要な役割を果たすことが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
上記の「研究実績の概要」が示すとおり、本年度は、P蛋白質アイソフォームの機能解析に使用する各種の組換えウイルスの作出を終え、さらに、これらのウイルスの病原性を検討した。その結果、P1およびP3蛋白質が病原性に重要な役割を担うことを強く示唆するデータを得ることができた。したがって、本研究は、当初の計画どおり進行していると判断できる。
顕著な病原性の上昇が確認されたNi-CE+NiP1株およびNi-CE+NiP3株、ならびに各々のコントロール・ウイルス(Ni-CE+CEP1株およびNi-CE+CEP3株)を用いて、P1およびP3蛋白質がウイルスのIFN誘導性および抵抗性にどのような影響を与えるのかについて検証を行う。さらに、これらの蛋白質の発現蛋白質を用いて、分子生物学的な側面から、西ヶ原株とNi-CE株のP1およびP3蛋白質の機能の差異を明らかにする。
当初、共同研究者のグレッグ・モーズリー博士(オーストラリア・モナシュ大学)を訪問し、研究討議を行う予定であった。しかし、昨年10月にモーズリー博士が(メルボルン大学)に移籍したことに伴い、申請者と同博士の都合が一致せず、訪問を見合わせることとなった。なお、モーズリー博士と、インターネット通信によるテレビ会議を頻繁に行ったため、この訪問の中止が本研究の遂行に及ぼす悪影響を最小限に抑えることができたと考えている。2014年度に、別のプログラムでモーズリー博士が申請者のラボを訪問することが決定しているため、現時点において、モーズリー博士を訪問する必要性は、とりあえずないと考えている。また、2014年度は、当初考えていた以上の消耗品費が必要となることが予想されている。したがって、次年度使用額については、消耗品の購入に使用する。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Journal of Virology
巻: 87 ページ: 12327-12338
10.1128/JVI.02132-13