今年度は、昨年度までに得られた結果をまとめ、より詳細な解析を加えた。知覚神経二次ニューロンの伝達に対してガスメッセンジャーとして注目されている硫化水素がどのような作用を示すのかをラット脊髄スライス標本を用いたパッチクランプ法によって明らかにした。 これまで、興奮性のインパルスを自発的に発生させる知覚神経に対して、硫化水素を適用するとその興奮性が増強されるニューロンと抑制されるニューロンがそれぞれ存在していることが示された。しかしながら、それらに加えて、硫化水素によって興奮が増強したのちにその興奮が逆に減少するニューロンが存在することを今回新たに見出した。興奮の増強には硫化水素のターゲットで知られるTRPA1やその他の未知のチャネルの関与が示唆された。抑制効果の要因として、これまでにも報告のあるターゲットの存在が考えられるものの同定には至らなかった。これらの応答に時間差が生じた理由も分かっていない。このようなパターンで応答するニューロンは、計測したうちの約半数に及んだ。硫化水素は内因性の調節因子として認識されつつある。脊髄組織中での生理的な役割の全容を明らかにするまでには至らなかったが、硫化水素は知覚神経の伝達を複雑に調節する可能性が示された。
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