研究課題/領域番号 |
24580429
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
小川 和重 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (60231221)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 単球 / マクロファージ / EphA2 / ephrin-A1 / 血管内皮細胞 |
研究概要 |
平成24年度は次の研究を行った。 1. 単球/マクロファージ(MΦ),血管内皮細胞(EC)のEphA/ephrin-A発現:マウスの腹腔MΦではEphA2,EphA4,ephrin-A1,ephrin-A5の比較的強い発現が,ヒトECでは比較的強いEphA2,EphA4,EphA7,ephrin-A1,ephrin-A4発現が認められた。 2. 単球/MΦへの分化に伴うEphA/ephrin-Aの発現動態:HL60では,単球/MΦへの分化に伴いEphA2,EphA4発現が誘導され,ephrin-A4発現が上昇した。マウス骨髄単核球では,単球/MΦへの分化度が進むにつれてEphA2,ephrin-A1,ephrin-A2発現が上昇した。 3. TNFαがMΦとECのEphA/ephrin-Aの発現に及ぼす影響:マウスの腹腔MΦでは,EphA4とephrin-A1発現がTNFαにより増強した。ヒトECでは, TNFαによりEphA2,EphA4,EphA6,ephrin-A1発現が増強し,EphA7発現が減弱した。 4. EphA2/ephrin-A1シグナルがの接着・遊走,アクチン線維(AF)形成に及ぼす影響:ephrin-A1-FcとEphA2-Fc吸着基質上に単球/MΦは強く接着し遊走が抑制され,AFを核とする突起の形成と消失が繰り返された。EphA/ephrin-Aシグナルは単球/MΦの接着と突起形成を誘導することが判明した。 5. EphA2/ephrin-A1シグナルがECの接着・AF形成に及ぼす影響:ephrin-A1-Fc-beadsはECに吸着し,ECの膜退縮を誘導した。Beadsの周囲には密なAFが形成され,EphAの活性化はAF形成を誘導することが判明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究が進捗した場合に前倒して行う項目(5),(6)を含め,以下の5項目を行う実験計画を立てた。(1)単球/MΦへの分化および炎症性サイトカインがEphA2/ephrin-A1発現に及ぼす影響の検討。(2) EphA2とephrin-A1の発現ノックダウンベクターの作製。(3) EphA2/ephrin-A1シグナルが単球/MΦの接着・遊走およびアクチン線維形成に及ぼす影響の検討。(4) EphA2/ephrin-A1シグナルが血管内皮細胞の接着とアクチン線維形成に及ぼす影響の検討。(5) EphA2/ephrin-A1シグナルが単球/MΦの経内皮細胞移動に及ぼす影響のトランスウェルを用いた検討。(6)シグナルの下流にアクチン制御分子RhoファミリーGTPaseの関与の有無を検討。 項目(1),(3),(4)については,計画どおり実行することができた。また,上記項目に加え,EphA2とephrin-A1だけでなく,すべてのAサブクラス発現を検討した。当該項目の担当者の一人である連携研究者が育児休業を取って休職し,その後退職したため,項目(2)は遅れている。ヒトとマウスのfull lengthのEphA2を発現するプラスミドとそれぞれ3種類のshRNAを発現するプラスミドは作製済みで,ノックダウン効率を検討中である。また,ウイルスベクターの感染効率は悪く,遺伝子導入法を再検する必要がある。項目(5),(6)は,研究が進捗した場合に行うことを計画した項目で,また,項目(2)で作成した材料を使用するため,実行できていない。以上より,現在までの達成度は計画の8~9割程度であるが,当初計画にない項目も実行したため,やや遅れているが,比較的順調に進んでいると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は,仮説「ephrin-A1,EphA2を発現する単球/MΦはECのEphA2,ephrin-A1を標的に連結・接着し,両細胞で発生するEphA2/ephrin-A1シグナルは経内皮移動に関与する」を検証する研究である。昨年度,細胞個々の実験で仮説に沿った結果が得られた。この成果と研究動向より,項目(2)~(4)の変更を加え当初計画の項目(1)を進める。 (1)単球/MΦとECの接触で発生するEphA2/ephrin-A1シグナルを経内皮移動の観点からin vitro検討し,仮説成立に確証が得られた時点で,in vivoの実験を開始する。 (2)EphAとephrin-Aは同一サブクラス内で結合する。EphA2とephrin-A1は主要対象分子であることは確認できたが,両分子のノックダウンによる明確な影響が認められない場合は,EphA4,場合によりephrin-A5,-A4(単球/MΦのみ)も対象分子に加え,shRNAを作製しダブルノックダウン実験などを行う。 (3)shRNAベクターの作製担当者を大学院生2名に変更する。 (4)予備実験でECへの導入効率は50%以上で有効と判断できたため,遺伝子導入はウイルスベクター感染ではなくプラスミドベクター電気穿孔法(NEPA21,ネッパジーン)で行う。 (5)脾臓は単球/MΦの髄外造血とプールの場で,心筋梗塞や固形腫瘍の病巣への動員に対する主要な供給源であることが判明した(Leuschnerら, J Exp Med, 2012)。この点から,脾臓は重要かつ有用な器官と判断し研究対象に加える変更をした。脾洞は通常と異なるECの構築で形成されている。基礎データを得るために,脾臓の血管・単球/MΦのEphA/ephrin-A発現を調べ,対象として適切かどうか判断する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
昨年度,受領した学内インセンティブを本研究に使用したこと,連携研究者の休職・退職でshRNAベクダー作製実験が完結できなったことから,約50万円を本年度の研究費に繰り越した。この研究費は推進方策に記述した「shRNAの作製と脾臓に関する実験」に割り当てる。当初の予定通り,備品の購入は行わず,研究費は消耗品の購入(約160万円)と学会発表の旅費(10万円)に使用する。以下に消耗品として使用する品目の概略を実験項目別に記述した。 (1)単球/MΦの分離・培養とECの培養:細胞分散・細胞分離キット・試薬,培養液・培養器具など;(2)shRNAベクターの作製とノックダウン効率の検証:ベクターの作製・精製キット・試薬,組替えDNA関連試薬,ノックダウン検証のための細胞培養液・試薬・器具,PCR関連試薬など;(3)トランスウェルを用いた経内皮移動とEphA2/ephrin-A1シグナル:トランスウェル,遺伝子導入関連キット・試薬,培養液・培養器具,サイトカイン,蛍光ランプなど撮影解析関連消耗品など;(4)EphA2・ephrin-A1に相互作用する分子の解析:活性化Rhoファミリータンパク検出キット,細胞接着分子の抗体およびFcキメラタンパク,EphA2とephrin-A1抗体,ウエスタンブロット関連試薬・器具など;(5)脾臓のEphA/ephrin-A発現と脾洞EC分離:マウス,免疫染色関連器具・試薬,抗体,RT-PCR関連器具・試薬など;(6)炎症モデルマウスの作製の炎症血管の解析(研究が進捗した場合):実験動物,Matrigel,炎症誘発試薬,RT-PCR関連器具・試薬,免疫染色関連試薬など
|