研究課題/領域番号 |
24580433
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
杉谷 博士 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (20050114)
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キーワード | 耳下腺腺房細胞 / RhoA / cAMP / 開口分泌 |
研究概要 |
外分泌腺の1つである唾液腺腺房細胞においては、自律神経の二重支配のもとに分泌が制御されている。交感神経刺激において、腺房細胞のβアドレナリン受容体が活性化され、唾液タンパク質が開口分泌される。この分泌には細胞内cAMP濃度の増加を伴うことから、cAMP依存性の分泌であり、ラット耳下腺腺房細胞においては、糖質分解酵素のαアミラーゼの開口分泌が引き起こされる。一方、低分子量GTP結合タンパク質の1つであるRhoは、細胞骨格系の制御に関わり、様々な細胞機能に関わることが知られている。本研究は、cAMP依存性外分泌におけるRhoの役割を明らかにする目的で、ラット耳下腺腺房細胞のcAMP依存性アミラーゼ分泌におけるRhoの役割を検討し、以下の結果を得た。Rhoはボツリヌス細菌外毒素C3によりADPリボシル化されることから、ラット耳下腺腺房細胞lysateにおけるC3によるADPリボシル化を[32P]NAD+を基質として検討したところ、約25kDaのタンパク質がADPリボシル化された。タンパク質分画に用いたゲルよりニトロセルロース膜にタンパク質を転写し、抗RhoA抗体を用いてイムノブロットを行ったところ、ADPリボシル化されたタンパク質がRhoAであることが同定された。Rhoは非活性型であるGDP-Rhoから刺激を受けて活性型GTP-Rhoに変換され種々の細胞機能に関わる。そこで、腺房細胞をβアゴニスト刺激時のRhoAの活性化をRhotekinを用いたpull-down assayにより検討したところ、時間依存的なRhoAの活性化が認められた。このβアゴニストによるRhoAの活性化は、cAMPリン酸化酵素阻害剤により阻害されたことから、cAMPリン酸化の下流でRhoの活性化制御が行われると考えられた。今までにC3がcAMP依存性のアミラーゼ分泌を阻害することが確認されていることから、β受容体-cAMP-リン酸化-RhoA-アミラーゼ分泌というカスケードが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、低分子量GTP結合タンパク質Rhoの唾液腺腺房細胞におけるcAMP依存性のタンパク質分泌過程での役割を明らかにする目的で行われたものである。RhoAの発現、β受容体-cAMPシグナル刺激によるRhoAの活性化、RhoA活性化に対するcAMPリン酸化酵素の関与、Rho阻害剤であるC3の効果の検討からアミラーゼの分泌へのRhoAの関与等から、ラット耳下腺腺房細胞におけるβアドレナリン受容体-cAMPシグナルの活性化によるアミラーゼ分泌にRhoAの活性化が関与することは明らかにされたものと考える。しかし、当初の計画であったRacとの検討を試みたが、Racの阻害剤は全くβアゴニストによるアミラーゼ分泌には影響しないことから、膵臓外分泌細胞で報告されているようなRacとの相互作用は考えにくい。さらに、RhoAの非活性化と活性化の調節因子については、未だ新たな知見が得られてはいない。これらのことからおおむね順調に進展はしているが、新たな課題は残されている。
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今後の研究の推進方策 |
Rhoシグナルにおいてはその下流にRhoキナーゼ(ROCK)が存在する。そのため、ROCK1およびROCK2の発現をイムノブロット法で特異抗体を用いて検討する。さらに、ROCK阻害剤を用いて、βアドレナリン受容体刺激あるいは細胞膜透過型cAMPアナログによるアミラーゼ分泌への影響を検討し、RhoA-ROCK系のcAMP依存性分泌に対する効果を検討する。また、Rhoはアクチン動態の制御に関わると考えられていることから、phalloidinによるFアクチンの動態を共焦点レーザー顕微鏡にて観察することにより、F-アクチンの動きと分泌との関連にRhoシグナルがどのように関与するかを明らかにする。これらの結果より、唾液腺腺房細胞におけるcAMP依存性のタンパク質分泌におけるRhoAの役割を考察する。
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