研究課題/領域番号 |
24580434
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
田中 実 日本獣医生命科学大学, 応用生命科学部, 教授 (90024736)
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キーワード | コレステロール代謝 / ニワトリ肝臓 / 胆汁酸 / ニューロテンシン / 遺伝子発現変動 |
研究概要 |
1. ニワトリのニューロテンシン前駆体mRNAのcDNAをクローニングし、コードされている前駆体蛋白質のアミノ酸配列を解析した。その結果、前駆体蛋白質のC-末端部に13アミノ酸からなるニューロテンシンと6アミノ酸からなるニューロテンシン類似ペプチド(LANT6)のアミノ酸配列が存在することが明らかになった。LANT6の6アミノ酸の配列のC-末端側の4アミノ酸の配列はニューロテンシンのC-末端部の配列と同じであった。さらにニワトリ消化管(十二指腸、空腸、回腸、結直腸)におけるニューロテンシン前駆体mRNAの孵化前後の消化管における発現が孵化前後において増加することが明らかになった。したがって、ニューロテンシンおよびLANT6は孵化前後の脂質および糖質の代謝調節に関与している可能性が示唆された。 2. ニワトリのコレステロールの合成経路の重要な酵素であるアセチル-CoA アセチルトランスフェラーゼ-2 (チオラーゼ-2) のcDNAをクローニングし、そのアミノ酸配列を明らかにした。チオラーゼ-2 mRNAの発現は肝臓で最も多く発現しており、その発現は孵化後に増大した。また、特異抗体により検出したチオラーゼ-2蛋白質もmRNAと同様の発現変動を示した。したがって、孵化後の肝臓において蓄積したコレステロールエステル由来のコレステロールにかわり、Thiolase-2によるアセチル-CoAからのコレステロール合成によるコレステロールの供給への変換がおこなわれることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的を達成するための研究項目は(1)孵化前後のニワトリ肝臓におけるコレステロール合成酵素ACAT-1と分解酵素LALの同定(2)ニワトリ肝臓におけるACAT-1とLALをはじめとする脂質代謝関連因子の孵化前後の発現動態の解明、(3)孵化前後のニワトリ肝臓におけるコレステロールエステル代謝およびトリグリセリド合成に関わる酵素および因子のニューロテンシン応答性の解明、(4)ニューロテンシン応答性因子の細胞内シグナリング経路の解明である。 初年度(2012年度)においてACAT-1とLALのcDNAクローニングによりアミノ酸配列および孵化前後のニワトリ肝臓におけるACAT-1とLAL遺伝子の発現動態を解明し、研究項目の(1)と(2)はおおむね達成した。さらに新たに胆汁酸の腸への輸送に働くSLC10A2のcDNAをクローニングし、SLC10A2は孵化前後の肝臓に蓄積したコレステロールエステルに由来する胆汁酸の腸への吸収に働いているタンパク質であるという知見を得た。当該年度においては研究項目(3)のNT応答性因子の解明のためNT前駆体mRNAのcDNAクローニングを行い、孵化前後の消化管における発現が孵化前後において増加することを明らかにした。さらにアセチル-CoAからのコレステロール合成経路に働く酵素であるチオラーゼ-2のcDNAのクローニングを行い、肝臓での遺伝子発現が孵化後に増大することを明らかにし、研究課題である孵化後のエネルギー脂質変換機構の解明に重要な知見を得ることができた。したがって本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては、まず、哺乳類の肝臓において同定されている胆汁酸輸送体(SLC10A1)のニワトリ肝臓における同定をおこなう。最近、DNAデータベースのニワトリゲノム配列中にニワトリSLC10A1の予想部分配列を見いだしたので、先に同定したニワトリの腸のSLC10A2と同様の方法で研究を進める。ついでこれまでに同定した孵化前後のニワトリ肝臓における脂質代謝関連因子、ACAT-1、LAL、チオラーゼ、SLC10A1のニューロテンシン応答性と細胞内シグナリング経路の解明をおこなう。ニューロテンシン受容体の阻害剤をニワトリの培養肝細胞に投与し、各因子の遺伝子発現へのニューロテンシンの添加効果を調べ、ついで種々の細胞内シグナリング経路阻害剤を用いてニューロテンシン応答性の細胞内シグナリング経路を明らかにする。 以上の研究推進方策により本研究の目的を達成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画では当該年度にニワトリの孵化に伴う肝臓におけるコレステロールエステル合成酵素(ACAT-1)と分解酵素(LAL)、胆汁酸の輸送体およびトリグリセリド合成に働く酵素等のニューロテンシン応答性を調べる予定であった。しかし、肝臓においてコレステロールエステルの分解によるコレステロールの産生にかわり、アセチル-CoAからコレステロールを合成する経路に働くチオラーゼ-2をcDNAクローニングに成功し、チオラーゼ-2の遺伝子発現変動を調べたところ、孵化後に増大することが明らかになり、本研究目的の達成に大きく貢献する発見となった。そのためニューロテンシン応答性を検討する研究を次年度に持ち越したため次年度使用額が生じた。 これまでの研究において孵化前後のニワトリ肝臓におけるエネルギー源脂質変換に関与するACAT-1、LAL、チオラーゼ-2の同定と発現変動を明らかにしてきた。本研究の最終年度である翌年度においては、ACAT-1、LAL、チオラーゼ-2に加え、胆汁酸輸送および脂質代謝に働く酵素あるいは転写因子の発現変動を調べ、これらの遺伝子の発現のニューロテンシン応答性を培養肝細胞を用いて検証する。そのための必要経費として次年度使用額と翌年度請求額を合わせて使用する。
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