研究課題
基盤研究(C)
本年度は、卵子成熟、胚発生時の細胞質内リソソーム機能不全によるカテプシン群の不必要時の漏出による細胞内機能への負の影響という仮説を立て、リソソームへのダメージを可視的に検出する蛍光プローブを用いることで、品質・発生能とリソソーム機能を評価する。加えて、リソソームから漏出する可能性のあるカテプシンBに焦点を当て、卵子・胚の品質とリソソーム損傷ならびに発現動態について解析した。【材料及び方法】ウシ卵子成熟時に41℃16時間の暑熱ストレスを付加し、1)胚盤胞形成率および細胞数に及ぼす影響、2)成熟後の卵子におけるカテプシン蛋白質の発現ならびにアポトーシス関連酵素であるカスパーゼ3の蛋白質発現を解析した。併せて、卵丘細胞でのアポトーシスを検出した。3)また、カテプシン活性阻害剤であるE-64を添加して暑熱ストレスを付加させた際の卵子でのカテプシン、カスパーゼ3タンパク質発現を検出した。【結果】1)体外成熟培養時の暑熱ストレス負荷によって体外受精後の胚盤胞発生率が有意に低下したが、カテプシン阻害剤の添加によってストレスによる阻害防止効果がみられた。2)暑熱負荷によって卵子卵丘細胞のTUNEL陽性細胞数が増加したが、カテプシン阻害剤の添加によって緩和された。3) 体外成熟培養時の暑熱ストレス負荷によって卵子のカテプシンBおよびカスパーゼ3の発現が有意に増加した。カテプシン阻害剤の添加によってカスパーゼ3の発現が抑制され、アポトーシス誘導との関係が示唆された。カテプシン阻害剤の添加は、暑熱感作時のカテプシンB蛋白質増加の改善には影響しなかったが、活性に対する抑制効果としての関与が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本課題の主要な研究テーマである「細胞質内タンパク質の分解―再利用に関わる機構としてのオートファジー・リソソームの観点から、酸化、暑熱が関わる化学的要因並びに物理的な外部ストレス要因が牛卵子成熟、初期胚発生並びに凍結保存に及ぼす影響」を明らかにするために3つの目的を設定し、当初年度の目標である「酸化、暑熱等のストレス因子がリソソームへの傷害に及ぼす影響の評価解析と成熟・初期発生への影響」に取り組んだ。その結果、暑熱ストレスを付加させて体外成熟を行った卵子の卵丘細胞および卵子自身でカテプシンの活性が増大し、それと合わせてリソソームの凝集・拡大がみられた。このことは、細胞内微小器官であり、蛋白質の異化にかかわるリソソーム内のプロテアーゼがストレスによって必要時以外に漏出することで、適正な細胞質内環境を悪化させているということが明らかとなった。加えて、アポトーシスシグナルの誘導とDNA断片化の増加が認められ、胚発生への影響としてのアポトーシスの関与が示唆された。また、興味深いことに、リソソームがダメージを受けて漏出し、細胞質内での活性が高まったカテプシンの活性阻害剤で卵子を処理することで、ストレス付加下にもかかわらず、発生が改善され、アポトーシスの抑制効果もあるという結果が得られた。このことから、本研究目的で想定していたストレス→リソソーム損傷→プロテアーゼ漏出→アポトーシスの流れの解明への一端が実証できたと考えられる。
今後の方針としては、当初計画通りに、「リソソームが関与する蛋白質分解・代謝に関わるオートファジー動態並びに、システイン・アスパラギン酸プロテアーゼであるカテプシン類のストレス応答とアポトーシス誘導に及ぼす影響」についての研究を進める。
平成24年度は、年度途中で研究代表者の所属が(独)農業・食品産業技術総合研究機構から北海道大学に変わり、研究実施体制に変更が生じたため、当初研究経費として予定していた分(30万円)が未使用となった。平成25年度では、24年度未使用分を遺伝子、蛋白質解析にかかわる解析対象因子を増やし、その抗体購入費等に使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
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